加害者の3つの責任

交通事故が発生した場合、事故車両の運転者は、民事上の損害賠償責任だけでなく、運転免許の停止・取消しなどの行政上の責任や、懲役・罰金刑などの刑事上の責任をも負う可能性があります。これら3つの責任は、それぞれその目的を異にしておりますので、一つの責任が不問となったとしても、他の責任が不問となるという関係にはありません。

【1】刑事上の責任
交通事故といえば、業務上過失致死傷罪を思い浮かべる方が多いかと思いますが、平成19年6月12日以降の交通事故については、同日施行された自動車運転過失致死傷罪が適用されるため、従来よりも重い責任を負うことになります。
また特に危険な運転によって人を死傷させた場合については、危険運転致死傷罪が適用される場合もあります。

ア.刑法犯
I.業務上過失致死傷罪(刑法211条1項)
「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。」

車の運転は、プライベートでの運転や、たまの運転であっても、「業務」に含まれるものと解されていますので、車の運転上必要な注意を怠って事故を起こし、人を死傷させてしまうと、この罪の適用があることになります(平成19年6月12日以前の事故の場合)。

II.自動車運転過失致死傷罪(刑法211条2項)
「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」

自動車運転に関する過失致死傷罪が取り出され、法定刑も重くなりました。

III.危険運転致死傷罪(刑法208条の2)
「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。」

少々、長いので、わかりやすくまとめますと、
■アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させた者
■進行を制御することが困難な高速度で、または進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行させた者
■人または車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で、四輪以上の自動車を運転した者
■赤色信号またはこれに相当する信号を殊更(ことさら=わざと)に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転した者の運転により、人が死傷した場合には、1年以上の有期懲役(死亡の場合)又は15年以下の懲役(傷害の場合)を負うというものです。

イ.道路交通法違反
I.交通反則通告制度
スピード違反等の交通違反も、道路交通法違反という、懲役刑又は罰金刑の定められた犯罪です。従来は、道路交通法違反についても、刑事訴訟法に基づく刑事手続によって処理されていました(交通事件即決裁判手続)。しかし交通量の増大に伴い、検察や裁判所の負担が過大になったため、昭和43年に、大幅な速度超過(一般道で時速30km・高速道路で時速40km以上)・無免許運転・酒酔い等運転等の重大違反を除く軽微な交通違反については、まず行政処分(反則金の納付)を前置して、これに応じない者のみを刑事手続で審理するという制度が設けられることとなりました。この制度を交通反則通告制度といいます。

この制度の適用のある交通違反については、まず警察官により交通反則告知書(青キップ)が交付され、違反者に、反則行為の告知と納付すべき反則金の額が告知されます。違反者がこの反則金を納付すれば刑事責任が追及されることはありません。
しかし違反者が反則金を納めなかった場合や、もともと悪質な違反行為として、交通切符/告知票(赤キップ)が交付されている場合は、原則通り、刑事手続により刑事責任が追及されることになります。

II.自転車の運転と道路交通法違反
自転車は、道路交通法上『車両』として扱われていますので、一部の罰則を除き、自転車の運転にも道路交通法の罰則の適用があります。
一般の方にも『身近な』罰則を挙げておきますので、安全運転の参考にして下さい。
■二人乗り :乗車又は積載方法の違反(法55条)
5万円以下の罰金
■飲酒運転 :酒気帯び運転等の禁止(法65条)
3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
■夜間無灯火運転 :車両等の灯火違反(法52条)
5万円以下の罰金
■手放し運転 :安全運転義務違反(法70条)
3月以下の懲役又は5万円以下の罰金
■急ブレーキ :急ブレーキの禁止(法24条)
3月以下の懲役又は5万円以下の罰金

尚、自転車の運転による交通違反には、先に述べた交通反則通告制度の適用はありませんので、原則通り、刑事手続により刑事処分が決定されることとなります。

【2】行政上の責任
行政上の責任としては、違反行為に応じて付される違反点数の累積により、運転免許が取り消し又は停止になることや、先に述べた交通反則通告制度による反則金(行政罰といいます)が挙げられます。

【3】民事上の責任
民事上の責任とは、被害者が加害者に対して負う、損害賠償責任の事を指します。民事上の責任については、一般の方にも割りと馴染みが深いので、加害者の一方的な過失による交通事故であれば、加害者が損害賠償責任を負うということを理解している方は多いかと思いますが、この損害賠償責任が認められる根拠条文については、よくわからないという方が正直なところだと思います。
交通事故における損害賠償責任の根拠となる条文は複数存在し、それぞれ責任の主体や責任を負う要件を異にしますので、事故類型に応じて、根拠とすべき条文を検討する必要があります。

ア.民法上の責任
I.一般不法行為責任(民法709条)
故意または過失によって他人の権利又は利益を侵害した者(不法行為者・加害者)が、これによって生じた損害を賠償する責任をいいます。
自動車の運転手が、不注意で歩行者に衝突してしまい、歩行者を死亡させてしまったケースでいうと、自動車の運転手は、不注意(過失)によって、歩行者の生命を奪ってしまった(他人の権利を侵害)ことになりますので、歩行者の生命が奪われたことによって生じた損害である慰謝料や逸失利益等(損害)を賠償する責任を負うことになります。

この条文で不法行為者(加害者)とされる者は、直接加害行為を行った者であることが多いですが、必ずしも直接行為者である必要はなく、それ以外の者が不法行為者とされる場合もあります。
例としては、運転免許を有していない者が事故を起こした場合に、同人に自動車を貸した者が、不法行為者となるようなケースが挙げられます。

II.使用者責任(民法715条)
ある事業のために他人を使用する者(使用者)が、その被用者が当該事業の執行に際して、第三者に損害を加えた損害を賠償する責任をいいます。
運送会社が、配送ドライバーの起こした事故の責任を負うような場合が典型例です。運送会社が配送ドライバーの配送行為(事業の執行)によって利益を上げていることから、配送行為によって生じた損害についても負担させるべきとの考えに基づく規定です。

この条文では、どのような関係が「使用者・被用者」とされる関係なのか、被用者の不法行為がどの程度業務と関係していると「業務の執行に際して」とされるのかが、問題とされることがあります。
前者については、必ずしも直接の雇用関係にある必要はなく、実質的な指揮・監督関係があれば良いとするのが判例です。後者については、事案の事情から使用者の業務と不法行為との関連性の強弱等を判断し、これに基づいて業務執行性を決定した裁判例などがあります。

III.監督義務者等責任(民法714条)
責任無能力者が、責任無能力により不法行為責任を負わない場合に、責任無能力者を監督する法定の義務を負う者が、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任をいいます。
民法では、責任無能力者として、精神上の障害を原因とする者(法713条)と、知能の未成熟を原因とする者(法712条)が掲げられておりますが、特に責任無能力とされる基準があるわけではなく、裁判上は、不法行為として問題とされている行為の性質に応じて、事案毎に判断されています。大体の基準を挙げるとすれば、後者では、10歳から13歳程度で、責任能力が備わる程度に知能が発達すると判断されています。

責任無能力者が交通事故を起こす場合としては、自転車事故が考えられます。坂道などでスピードを出して歩行者に突っ込むようなケースであれば、大事故に発展して両親が多額の賠償責任を負うこともありえますので、幼い子を自転車に乗せる場合には、十分に注意しなければなりません。

IV.共同不法行為責任(民法719条1項)
複数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えた場合や、複数の共同行為者の中で誰が損害を加えたのかが明らかでない場合に、共同行為者全員が全損害を連帯して賠償する責任をいいます。
判例上は、共同不法行為が成立するための要件として、共同行為者の各行為に一般不法行為が成立することと、共同行為者の各行為が客観的に関連共同していることが必要とされています。

共同不法行為が成立する具体例としては、知人を乗せて自動車を運転中に、第三者の車両と衝突事故を起こし、知人に怪我を負わせてしまった場合には、運転者と第三者の行為が、知人との関係で共同不法行為となり、運転者と第三者は連帯して、知人の全損害を賠償する責任を負います。(ここで運転者が知人に全損害を賠償した場合は、知人に対し過失割合に応じた負担分を求償することができます。)
また歩行者が横断歩道で信号待ちをしている時に、車道で自動車同士の衝突事故があり、その自動車双方が勢いあまって歩行者に衝突し、怪我を負わせた場合も、衝突した自動車の運転手双方に共同不法行為が成立しますので、歩行者は両運転手に全損害を請求することができることになります。

共同不法行為が成立する場合には、損害賠償を請求できる相手方が複数になりますので、一方加害者が無保険の場合等、事案によっては、被害者の救済に大変重大な影響を与える規定となります。
したがって、直接の加害車両以外にも事故に関係していると思われる車両がある場合は、その運転者及び車両の情報を忘れずに控えておくことが肝要です。

イ.自動車賠償責任法上の責任
I.運行供用者責任(自賠法3条)
自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)が、その運行によって他人の生命又は身体を害したときに、これによって生じた損害を賠償する責任をいいます。
判例に拠れば、自動車の使用についての支配権を有し(運行支配)、かつその自動車の使用により享受する利益(運行利益)が自己に帰属する者が、自賠法上の運行供用者であるとされておりますが、これは、運行供用者責任の本質が、自動車の運行を支配する者にはそこから生ずる危険をも負担させるという危険責任と、自動車の運行から利益を得る者にはそこから生ずる損害をも負担させるという報償責任にあることに基づくものです。

II.具体例
運行供用者と判断される者の具体例としては、車両の保有者が事故を起こした場合の保有者自身が挙げられますが、この場合以外にも、車両の借主が事故を起こした場合の貸主や、子供が事故を起こした場合の親、盗難に遭った車両が事故を起こした場合の盗難被害者等も、運行供用者と認定される可能性があります。