被害者の場合

【1】事故現場での対応事項
通常,交通事故(車両等の交通による人の死傷または物の損壊をいいます)の被害にあった方またはそのご家族等は,交通事故が発生した段階では被害対応に関する知識を十分に備えておらず,事故直後の現場対応が不十分であるケースは少なくありません。
しかし事後的にであっても,事故現場での対応方法を検討し,その中に,事故後であってもできる事があるのであれば,今後行われる示談交渉,訴訟等を見据え,できる限りのことをやっておく必要があります。
被害者が死亡または重傷を負った場合などで,被害者自身が即座に対応することが不可能な場合であれば,ご家族等が直ちに現場に赴き,加害者や事故状況の確認,目撃者の確保を行う等の対応をしておくことが肝要です。
 以下,順番に,事故現場での対応事項について説明していきます。

ア.加害者・加害車両・保険内容の確認をする
交通事故によって,身体に傷害を受けた場合や車両が破壊された場合など,自らの権利を侵害された場合には,被害者は,その権利侵害によって生じた損害の賠償を,加害者に請求することができます。そのためには当然,加害者がどこの誰であるかが特定できていなければなりません。また被害者に対する損害賠償責任は,加害車両の運転者だけでなく,その雇用主も負担する場合があります(民法715条・使用者責任)ので,被害者としては,加害者の住所・氏名・年齢・電話番号・勤務先を確認する必要があります。確認方法としては,免許証で住所(現住所が違う可能性もあるので,本籍も確認する)・氏名・年齢を確認した上で,名刺を貰い,電話番号を聴取しておくのが確実です。

また加害車両の運転者が加害車両の所有者ではない場合,加害車両の所有者に責任を問える場合もあります(自賠法3条・運行供用者責任)ので,加害車両の所有状況・使用状況を確認する必要があります。確認方法としては,車検証で加害車両の所有者の確認を行い,加害者が加害車両の所有者でない場合には,所有者との関係,当日の運行目的,加害車両の普段の使用状況を聴取しておき,念のためナンバープレート記載の登録番号を控えておきましょう。

なお,当事者車両以外にも事故に関係していると思われる車両があるときには,必ず当該車両のナンバープレートを確認し,登録番号を控えておくようにして下さい。仮に当該車両の運転者が刑事責任を負わない場合でも,民事上は共同不法行為者であるとして,損害賠償責任を負う可能性があり,この場合,被害者の請求できる自賠責保険の保険金限度額がX倍(加害車両の数=X,2台であれば2倍になります)となりますので,加害者に任意保険が付保されてないケース等で自賠責保険にしか保険金請求をできない場合には,被害者救済に役立つ可能性があります。

イ.保険内容を確認する
被害者は,自賠責保険から,死亡または11日以上の治療を要する傷害を受けた場合,その事実を証明するだけで一定の金額の支払いを受けることができ(仮渡金),また治療の継続により治療費等の支払いが長引いている場合には,既に支払った部分の治療費等の支払いを受けることもできます(内払金)。更に被害者自ら保険金の支払請求をすることも可能です(被害者請求)ので,加害者の自賠責保険の付保状況を確認しておく必要があります。また自賠責保険で担保しきれなかった損害については,任意保険に請求することになりますので,加害者の任意保険の加入の有無,有効期間,契約番号,保険内容についても,可能な限り確認しておくべきです。
  確認方法としては,自賠責保険証明書及び任意保険の証書によるのが確実です。自賠責保険会社名や証券番号については,現場で確認できなかった場合でも,自動車安全運転センターが発行する交通事故証明書により確認することが可能です。
 
ウ.目撃者を確保する
事故に目撃者がいる場合には,目撃者の住所,氏名,連絡先を聞いておき,後日,事故状況や事故内容について聴取をし,聴取結果を,聴取日時・聴取者・聴取場所等と共に書面化しておきます。また後に訴訟になった場合に備え,証人になって欲しい旨を伝えておきましょう。
目撃者の確保は,事故直後以外では非常に困難となりますので,事故直後に行うようにして下さい。重大事故でもない限り,警察が目撃者の確保を行ってくれることはほぼありません。

エ.緊急措置及び警察への事故報告をする
道路交通法上,事故現場での緊急措置(運転の停止及び状況確認・負傷者の救護・道路における危険防止措置)及び警察への事故報告は,交通事故車両の運転者の義務とされておりますので,自動車同士の衝突事故の場合には,仮に自分の運転に過失がなく,一方的な被害者であると考えた場合であっても,緊急措置と警察の届出は行うようにして下さい。
  なお,被害者が警察への事故報告義務を負わない場合であっても,加害者が警察への事故報告を行っていない場合には,警察による事故原因の調査が行われないばかりか,保険金の請求に必要な書類である交通事故証明書の発行もなされませんので,加害者が警察への報告を行っていない場合には,被害者自ら事故報告を行う必要があります。

オ.保険会社へ連絡する
被害者が任意保険に加入している場合で,当該事故に任意保険の人身傷害補償条項,搭乗者傷害条項,車両条項または無保険者担保特約の適用がある場合には,被害者は自身の加入している任意保険会社から,保険金の支払いを受けることができますが,その前提として,被害者は事故後直ちに,任意保険会社に対し事故報告をしなければならないとされておりますので,事故後速やかに保険会社へ連絡するようにしてください。

【2】事故後の対応
ア.医師の診断を受ける
交通事故に限った話ではありませんが,受傷直後には身体的な異変を感じない場合でも,徐々に異変が現れてくる場合がままあります。この場合,診断が遅れたことによって,症状が悪化する危険があることはもちろんですが,診断書の作成が遅れることにより,症状と事故との関連性を疑われる危険性も生じます。
診断書は,損害賠償額の算定の基礎となる資料であるとともに,当該事故が人身事故であるか物損事故であるかを決する資料となるものですので,事故との関連性が薄まらないよう,事故直後に医師の診断を受けて診断書を作成してもらうようにしてください。
また頭部や胸腹部を強打した場合等は,予想以上に重症である可能性もありますので,自覚症状が無くても,精密検査を受けておかれることをお勧めします。

イ.交通事故現場の調査をする
被害者の被った損害が適正に賠償されるためには,当該事故の原因が性格に把握されていなければなりません。事故原因は,当事者からの事情聴取や実況見分調書等の刑事記録からも把握することは可能ですが,これらの証拠が事故状況を正確に反映していないとして,後日争われるケースは少なくありません。したがって,予め被害者自身で証拠収集を行っておくことにより,不正確な証拠をチェックし,場合によってはその証拠力を弾劾するための材料を確保しておく必要があります。
このように,現場調査の目的は,後日の紛争等に備えるための証拠収集にありますので,現場調査の結果は,証拠として通用する形で残しておく必要があります。

例えば,道路のスリップ痕を写真として残しておくのであれば,撮影者・撮影場所・撮影日時・撮影方法・立会人等を,写真撮影報告書等の書面を作成して記録しておき,第三者が当該写真を見た際に,当該写真が当該事故原因の解明においてどのような意味を有するかを理解できるようにしておきます。そうすることで,その写真が当該事故原因を解明するための証拠となりうるわけです。調査結果の記録方法としては,写真以外にも,ビデオ撮影や見取図を作成することも有用です。
また現場調査については,どのような資料が後々役に立つかはわかりませんので,スリップ痕・血痕・ガラス片や積荷等の散乱状況・被害者の転倒地点及び事故関係車両の停止位置その他事故の痕跡に加え,道路の幅員・見通し・交通量・舗装状況・制限速度・標識や信号機の有無等,当該事故と関係がありそうなものについては,可能な限り行っておくのが肝要です。

なお,事故現場の調査は,交通事故後できるだけ早く行うようにしてください。時間の経過により,道路状況は変化しますし,被害者の記憶が減退し,正確な調査が行えなくなってしまうからです。

ウ.事故後の経緯を書面につけておく
示談交渉や訴訟では,現場写真や実況見分調書,領収証,診断書などの他,加害者や保険会社担当者の発言内容も重要な証拠となる場合がありますので,保険会社と交渉した際の担当者との会話内容や,加害者と会話した際の会話内容も,忘れないうちに,そのつど書面化しておくようにします。
また,会話内容だけでなく,入通院状況,入出金状況,保険会社との交渉状況,警察への出頭状況等,当該事故に関して生じた出来事についても,エクセルを用いるなどして表形式でまとめておくと,保険会社との交渉や弁護士への依頼の際に大変役立ちます。

【3】自転車との事故
ア.自転車事故も交通事故

道路交通法上,交通事故とは,「車両等の交通による人の死傷または物の損壊」と定義され,車両とは,自動車,原動機付自転車,軽車両及びトロリーバスをいうものとされています。そして自転車は軽車両とされていますので,自転車の運転によって生じた事故も立派な交通事故となりますので,被害者としては,自動車事故の場合と同様に,事故対応を行う必要があります。

イ.自転車事故と保険
自転車と歩行者間の事故には自賠責保険の適用がありませんが,自転車にTSマークの貼付がある場合で,かつマークに記載された点検日から1年以内の事故であれば,TSマーク付帯保険による賠償を受けることができます。
TSマーク付帯保険による賠償が受けられない場合には,被害者救済は専ら任意保険からの保険金支払いによることになります。この場合,加害者または被害者が自転車事故に対応する保険に加入していれば,その保険から支払いを受けることができますので,当事者の付保状況を確認することが肝要です。学生総合保険,子供総合保険,総合傷害保険に加入していれば,保険金が支払われる可能性がありますので,自動車保険等に付帯して付保していないかの確認も含め,見落としのないようにしてください。