後遺障害慰謝料:737万円
逸失利益(上限) :1,152万円
※令和2年4月1日以降に発生した事故の場合
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交通事故でケガをすると、治療を続けても治癒せずに痛みや症状が残ってしまう、いわゆる「後遺障害」。後遺障害は、症状の程度によって14段階の等級に分かれており、重度のものほど等級の数字が小さくなります。
なかでも、日常生活に多大な影響が見込まれ、重度の症状が認定要件とされている「後遺障害4級」。今回は、後遺障害4級について、認定されるまでの流れや認定要件、賠償金を請求できる項目について、わかりやすく解説いたします。「自分やご家族が4級に該当するかわからない」、「4級認定を受けたけど、適切な賠償金がわからない」という方は、ぜひご覧ください。
後遺障害4級の要件は以下のとおりです。
眼鏡やコンタクトレンズを着用した状態で、両目の視力がともに0.06以下になることをいいます。
ここでいう「視力」とは、裸眼ではなく矯正視力のことです。そのため、裸眼で視力が0.06以下となっても、後遺障害4級の認定要件には当てはまらないため、注意が必要です。
「咀嚼機能に著しい障害を残す」とは、お粥かそれと同じくらいのやわらかい食べ物しか食べられなくなることです。
また、「言語機能に著しい障害を残す」とは、4種類の子音のうち2種類の発音ができなくなる、または綴音(ていおん)機能に障害が残ることで、言語のみでは意思疎通することができない状態のことです。
一般的に言語は、母音と子音に区別されますが、先述した「4種類の子音」とは、口唇音(ま行など)、歯舌音(た行など)、口蓋音(か行など)、喉頭音(は行)の4つを指します。
「聴力を全く失った」とは、平均純音聴力レベルが90㏈以上であることです。4級3号の聴覚障害は、片耳ではなく「両耳」である点に注意が必要です。
「上肢をひじ関節以上で失った」とは、次の3つの状態をいいます。両腕ではなく、片腕であっても認定要件になります。
「下肢をひざ関節以上で失った」とは、次の3つの状態をいいます。両腕ではなく、片腕であっても認定要件になります。
「全部の用を廃した」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、または中手指節関節もしくは近位指節間関節に著しい運動障害を残すことです。
なお、親指の指節間関節は1つしかないため、遠位(心臓から遠い)や近位(心臓から近い)という概念がありません。そのため親指については、「指節間関節に著しい障害を残すもの」となります。
また、親指の機能を重く評価して、橈側外転または掌側外転のいずれかが健側の2分の1以下に制限されている場合にも、「著しい運動障害」に該当します。
「両足をリスフラン関節以上で失った」とは、次の2つの状態をいいます。ここでは、片足では認定要件を満たさず、両足であることが必要です。なお、片足の場合は、7級8号が認定される可能性があります。
足根骨とは、足首やかかとにある短骨の総称です。足の甲またはかかとから切断した場合には、4級7号が認定される可能性があります。
後遺障害等級の認定手続には、被害者自身で後遺障害を申請する「被害者請求」と、加害者の保険会社に手続を任せる「事前認定」という2つの方法があります。
まずは被害者請求の流れから見てみましょう。
毎月の入通院日や、症状、治療状況が記載されます。一般的に治療費は、保険会社が直接病院へ支払い、自賠責保険会社への請求も行うため、被害者が収集する書類は少ないです。
追加や補足の資料が必要になった際は、保険会社から取り寄せるようにしましょう。
もし、保険会社が治療費の対応を行っていない場合は、被害者の方が診断書や明細書を収集する必要があります。治療終了の際や、被害者から自賠責保険会社に対して賠償金の請求を行う(被害者請求)際に、主治医に作成いただくのがよいでしょう。
「症状固定」とは、被害者が十分な治療を受けたうえで、主治医からこれ以上は治療効果がなく、症状が良くも悪くもならないと診断された状態にあることをいいます。
一般的に、「治療を終了する日=症状固定日」となるケースが多いです。
症状固定日が決まったら、後遺障害が残っていることを後遺障害診断書に記載してもらいます。
まずは、病院で診断を受ける前に、あらかじめ自覚症状をご自身で整理したうえで、医師に診断してもらう際には、自覚症状を正しく、漏れなく、遠慮なく伝えることを心がけてください。
主治医に症状をしっかりと伝えないことで、ご自身が思っていたよりもずっと軽い症状を後遺障害の診断書に記載されることがありますので注意しましょう。
後遺障害4級の場合、咀嚼及び言語障害(2号)や聴覚障害(3号)によって後遺障害認定を受けることがあります。これらは画像などから判断するのが難しいため、特に注意が必要です。
まず、2号の「咀嚼及び言語障害」についてですが、それぞれ必要な資料が異なるので注意が必要です。咀嚼機能については、「そしゃく状況報告表」により判断されるのが一般的です。状況報告表に加えて画像を撮影し、あごの骨がどの程度ずれているかを明らかにしておくことも有効です。また、言語障害については、言語聴覚士による証明書などを取得しておくとよいでしょう。
次に、3号の「聴覚障害」についてですが、単に聴覚検査を行っただけでは後遺障害として認定されないことがあります。そのため、聴覚検査に加えて、聴性脳幹反応検査の必要性も検討するべきです。
聴性脳幹反応検査とは、脳波で聴力を調べる検査のことです。主治医とよく相談して、効果的な書類を収集することが重要です。
必要書類は下記のとおりです。
ケガに対する慰謝料や、交通費、休業損害等を後遺障害と一緒に請求したい場合は、下記書類も併せて用意します。
資料が一通りそろったら、次はいよいよ後遺障害の申請です。
必要な情報を記載した請求書と資料一式を加害者側の自賠責保険会社に郵送します。請求先である自賠責保険会社は、「交通事故証明書」から確認することができます。
請求内容にもよりますが、結果がわかるまでに、おおむね1~3ヵ月程度の期間がかかります。
その後の流れとして、郵送した書類は自賠責保険会社を経由して、損害保険料率算出機構という調査機関で損害の調査が行われます。調査結果は自賠責保険会社を経由して、被害者に通知されます。その後、支払指図書に従い、保険金の支払いが行われます。
個人で行う被害者請求では、注意点や用意する資料がたくさんあり、対応が難しいことが多いでしょう。そこで、難しい手続を簡単にするための請求方法をお伝えします。
弁護士は、被害者に代わって被害者請求を行うことができます。
ほとんどの手続を任せられるという点では、後述する「事前認定」と似ていますが、弁護士に依頼した場合、被害者の方が資料を持ち合わせていないことがままあります。「事前認定」と手続を比較すると、弁護士が保険会社や病院から書類を集めるための時間がかかる点が異なります。
弁護士に相談・依頼する。
弁護士が保険会社から資料を収集し、被害者の方からヒアリングする。
資料の追加、修正が必要な場合は、弁護士もしくは被害者自身で対応する。
手続に必要な資料を弁護士に郵送する。
ステップ4以降は、弁護士が手続を行います。
弁護士は「被害者の代理人」という立場で手続を行いますので、当然いい結果となるよう、全力でサポートします。特に、日頃から交通事故の案件を扱う弁護士は後遺障害等級認定のプロなので、同じ症状であっても認定されやすい表現や、症状の立証のために必要な検査についてのアドバイスが可能なため、適正な後遺障害の等級認定を受けられる可能性がグンとあがるのです。
また、異議の申立や、紛争処理機構への申立手続などにも精通しているので、さまざまなアプローチから認定の可能性を検討することができます。
被害者に代わって、加害者側の保険会社が後遺障害申請手続を代行して行うことを「事前認定」と言います。多くの場合、保険会社のサービスで治療費は保険会社が直接病院へ支払い、自賠責保険会社に対する請求もまとめて対応する「一括対応」の流れが一般的で、被害者が用意する書類も少ないことから、手続が最も簡単な方法だといえます。
保険会社から打診されることもあります。
郵送後は、保険会社が手続対応してくれます。
自賠責保険会社への請求で必要な資料は、申請者が被害者であっても保険会社であっても変わりません。そのため、手続に必要な資料を保険会社が収集し、手続まで行ってくれるため、申請者にとって負担が少ない方法です。
しかし、保険会社は、手続の一環として対応するだけですので、自覚症状が漏れなく表現されているかなど、書類の精査まで行ってくれるわけではありません。また、診断書を作成する医師のほとんどは「医学のプロ」であり、「自賠責保険における後遺障害認定のプロ」ではありませんので、どうしても表現に不足がある、自覚症状を軽く書かれてしまうなどのケースがあります。
つまり、手続は早いし簡単だけど、正しく認定されるとは限らないということです。
後遺障害4級が認められた場合、「後遺障害の慰謝料」と「逸失利益」を賠償金に追加して請求することができます。
自賠責保険基準における4級の保険金額の上限は、以下のとおりに決められています。
後遺障害慰謝料:737万円
逸失利益(上限) :1,152万円
※令和2年4月1日以降に発生した事故の場合
認定を受けるとまず、後遺障害慰謝料と逸失利益の合計額である「1,889万円」を上限として、後遺障害の保険金が支払われます。
※条件によって減額されることがあります。
被害者は保険会社に対し、これを超える金額を請求することとなりますが、たとえば、根拠なく「慰謝料1,000万円だ!」と言っても、保険会社が応じることはありません。金額交渉をするのであれば、裁判上で考えられる金額を基礎として設定されている「裁判所基準」を用いることが最良です。
自賠責保険基準では737万円と定められていますが、裁判所基準では「1,670万円」です。実に2倍以上もの開きがあることがわかります。この差は大きいですね。
逸失利益(いっしつりえき)とは、交通事故により負傷し、治療を尽くしても一定の後遺障害が残ることで労働能力が低下してしまい、事故がなければ将来獲得できたであろう収入が減ってしまうことをいいます。
事故前年の年収額 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、中間利息を控除したものです。
ワンポイント 中間利息控除計算の係数について
中間利息控除計算の係数には、単利計算のホフマン係数と、複利計算のライプニッツ係数が存在します。
逸失利益の計算では、利息を控除する必要があるため、単利計算であるホフマン係数のほうが被害者にとって有利ですが、現在はライプニッツ係数を採用することが原則となっています。
交通事故処理の知識・経験がない方にとっては、逸失利益の算定について理解が難しいこともあるかと思いますので、まずは下の例をご覧ください。
<例>50歳で500万円の年収があったが、後遺障害4級が認定。仕事に甚大な影響が出た場合
まず、これまで得られていた500万円が、理論上92%減ることとなります。そして、67歳までの17年間にわたって影響がありそうだとなった場合、「500万円の92%が17年間喪失する」ということになります。実際には、「17年」ではなく、17年に対応するライプニッツ係数をかけることになることが一般的です。
単純計算すると、「500万円×92%×17年=7,820万円」となります。
これが、逸失利益の考え方です。
自賠責保険基準では、収入金額にかかわらず1,152万円を上限としていますので、適正な金額で請求しないまま示談してしまうと、大きく損をしてしまう可能性があります。
次は、ライプニッツ係数を使った計算についてご説明します。
労働能力喪失期間(年) | ライプニッツ係数(5%) | ライプニッツ係数(3%) |
---|---|---|
1 | 0.9524 | 0.9709 |
2 | 1.8594 | 1.9135 |
3 | 2.7232 | 2.8286 |
4 | 3.546 | 3.7171 |
5 | 4.3295 | 4.5797 |
6 | 5.0757 | 5.4172 |
7 | 5.7864 | 6.2303 |
8 | 6.4632 | 7.0197 |
9 | 7.1078 | 7.07861 |
10 | 7.7217 | 8.5302 |
11 | 8.3064 | 9.2526 |
12 | 8.8633 | 9.954 |
13 | 9.3936 | 10.635 |
14 | 9.8986 | 11.2961 |
15 | 10.3797 | 11.9379 |
16 | 10.8378 | 12.5611 |
17 | 11.2741 | 13.1661 |
18 | 11.6896 | 13.7535 |
19 | 12.0853 | 14.3238 |
20 | 12.4622 | 14.8775 |
21 | 12.8212 | 15.415 |
22 | 13.163 | 15.9369 |
23 | 13.4886 | 16.4436 |
24 | 13.7986 | 16.9355 |
25 | 14.0939 | 17.4131 |
26 | 14.3752 | 17.8768 |
27 | 14.643 | 18.327 |
28 | 14.8981 | 18.7641 |
29 | 15.1411 | 19.1885 |
30 | 15.3725 | 19.6004 |
31 | 15.5928 | 20.0004 |
32 | 15.8027 | 20.3888 |
33 | 16.0025 | 20.7658 |
34 | 16.1929 | 21.1318 |
35 | 16.3742 | 21.4872 |
36 | 16.5469 | 21.8323 |
37 | 16.7113 | 22.1672 |
38 | 16.8679 | 22.4925 |
39 | 17.017 | 22.8082 |
40 | 17.1591 | 23.1148 |
上記の例を正しく計算すると、500万円×92%×ライプニッツ係数という計算になります。
事故にあった日によって、使用する係数が異なりますが、今回は2020年4月に施行された民法の改正により定められた年利3%を採用して計算してみましょう。
そうすると、17年のライプニッツ係数は「13.1661」となりますので、500万円×92%×13.1161=6,033万4,060円となります。
将来のお金を今、先取りで得ると、運用していくことで利息を増やすことができるなど、のちに受け取るよりも価値があると考えられているので、「先取りするなら利息分引いておくよ。」という考えから、ライプニッツ係数を採用しています。
ワンポイント 民法改正による中間利息の改正について
ここまでで、自賠責保険基準と裁判所基準で受け取れる金額に大きな差があることは、おわかりいただけたと思います。
ご自身で対応していく場合、知識がある保険会社の担当者は、慰謝料や賠償金の手出しが少なくなるよう、自賠責保険基準に近い金額を提示することが多く、初めから裁判所基準で計算して支払いをしてくれることは極々稀と考えておいていいでしょう。
交通事故の被害にあったとき、プロのサポートを受けた後遺障害申請手続か、裁判所基準で計算された賠償金額かなど、専門家に依頼するか否かで、認定される後遺障害の等級や受け取れる賠償金額に大きな違いが生じる可能性があります。
後遺障害の申請を考えている場合や、後遺障害が認められた際の慰謝料や賠償金請求は、交渉の専門家である弁護士に依頼することで、大きなメリットがあるケースが多いため、まずは無料相談できる弁護士に相談されることをおすすめします。
私は,司法試験を目指した当初から,親しみやすい法律家になりたいと考えていました。それは,私自身が弁護士に対して,なんとなく敷居が高そうというイメージを抱いていたからです。私は,司法試験に合格した後,学生時代の友人から,合格しても何にも変わらないね,安心したと言われました。弁護士になった後も,昔と変わらないねと言われ続けたいです。私は,ただすこし法律を勉強しただけで,そのほかは普通の人と何ら変わりはありません。なので,どんなことでも気軽に相談してください。