- 窓口で自由診療として支払った金額
- 健康保険での治療扱いとなった場合の本人負担分
交通事故によるケガでの入院や通院には,健康保険が使えないというイメージが一般にあるようです。しかし,健康保険*1は,被保険者の疾病,負傷,出産または死亡に関して必要な保険給付を行うことを目的とする制度ですので,交通事故によるケガの通院治療でも,原則として健康保険を使用して,医師の診療を受けることができます。
*1国民健康保険,公務員共済および船員保険を含む広い意味での健康保険をいいます。
厚生労働省(以下,厚労省))からも,旧厚生省時代に,交通事故の診療に健康保険を使用できるとの見解が表明され,通達(1968年10月12日保険発第106号)が出されています。
また近年でも,厚労省が通達(平成23年8月9日 保保発0809第3号「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」)を改めて出しています。このことからも,交通事故による傷病も健康保険の給付対象となると考えられていることが分かります。
ただし,仕事中や通勤中の交通事故については,労災保険の給付が優先されるなど,健康保険を使用できない場合もあるので注意しましょう。
加害者が任意保険に入っていない場合,まずは一旦被害者が治療費を立て替えて,後日,加害者もしくは自賠責保険に請求するのが通常です。
しかし,自賠責保険に請求できる金額は,傷害による損害の場合,最大でも120万円となっており,保険診療に比べて高額な自由診療だと、診療報酬が賄いきれない場合も少なくありません。さらに,加害者に資力がなかったりすると,加害者から立て替えた治療費の回収ができず,120万円を超える分は事実上,被害者の負担となってしまう可能性があります。
その点,保険診療であれば診療報酬を低く抑えることができます。そのため,傷害による損害に対する自賠責保険の支払限度額である120万円の残りの枠を,治療費以外の賠償金として請求できるようになるのです。 下記に,健康保険を適用しなかった場合と適用した場合の,それぞれについて例を記載しましたのでご覧ください。
自賠責保険の支払保険金限度額(傷害分):最大120万円
例)【過失割合】加害者:被害者=8:2 【損害額】治療費:100万円 ,慰謝料・休業損害など:100万円
健康保険を適用しない場合 | 健康保険を適用した場合 | |
---|---|---|
治療費(a) | 200万円 (全額負担,2倍の診療報酬) |
30万円 (窓口負担3割分) |
慰謝料・休業損害など(b) | 100万円 | 100万円 |
損害合計金額(a)+(b) | 300万円 | 130万円 |
損害賠償額(c) | 300万円×0.8(加害者の過失割合)= 240万円 |
130万円×0.8(加害者の過失割合)= 104万円 |
自賠責保険を利用 (支払保険金限度額最大120万円) |
||
受取保険金額(d) | 120万円 (自賠責保険の支払保険金限度額を適用した場合) |
104万円 (自賠責保険の支払保険金限度額内) |
病院に支払う金額(a) | 200万円 | 30万円 |
被害者の受取金額(d)-(a) | -80万円 | 74万円 |
自由診療で多額の治療費を支払った場合,治療費だけで自賠責保険の支払保険金限度額の大部分を占めてしまい,慰謝料や休業損害,逸失利益などの損害賠償を受け取れない可能性があります。過失割合や状況よっても異なりますが,健康保険を使わないと被害者の持出しが発生し,損してしまう場合もあることを頭に入れておきましょう。
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原則として過失割合が0:100になる追突事故などを除けば,動いている車同士の交通事故において,被害者の過失割合が0になるケースはあまり多くないでしょう。その場合,加害者に対し,事故により発生したケガの治療費を全額請求することはできず,過失割合に応じて治療費の自己負担分が生じます。
【過失割合】加害者:被害者=8:2 【治療費】100万円
被害者が実際に病院に支払った金額 | 100万円 |
---|---|
被害者が請求できる金額 | 100万円×0.8= 80万円 |
被害者の負担額 | 100万円-80万= 20万円 |
基本的に健康保険は治療費の7割を負担してくれます。
被害者が実際に病院に支払った金額 | 100万円×0.3= 30万円 |
---|---|
被害者が請求できる金額 | 30万円×0.8= 24万円 |
被害者の負担額 | 30万円-24万円= 6万円 |
前項でも申し上げましたが,健康保険を使わない場合,過失割合によっては高額な治療費の自己負担をしなければならない可能性があります。
一方,過失割合が0の場合には,交通事故による負傷の治療費などを,加害者に対して全額請求できるのが原則です。しかし,診察や治療が必要以上に濃厚・過剰となっている場合や,そもそも治療の必要性が認められない診療に対しては,発生した治療費の一部もしくは全額について請求が認められない場合があります。
また、最終的に治療費の全額請求が認められた場合でも,一旦治療費を立替えなくてはならないケースもあり,それ自体が負担となります。そのため,健康保険を使って治療費を抑えておくことで,立替えの負担軽減や,万が一の自己負担リスクを最小限にとどめることが可能になります。
自由診療と健康保険診療を比較した場合のメリットを述べてきましたが,健康保険の制度の1つに「高額療養費制度」という誰もが利用できる制度があるのはご存じでしょうか。
たとえば手術や入院などで医療費高額になった場合に,決められた手続を行うことにより,年齢や年収に応じて設定されている上限額を超えた場合,超えた金額が支給される制度となります。(ただし「月間」なので,月の初めから終わりまでの同月内の医療費の額で判断されます。)
しかし,最終的に支給されるとはいえ,高額療養費制度は一旦窓口で全額払った上で申請をし,その後,上限を超えた金額が還付となりますので,一度は立替えをしなければならないという点において金銭的な負担は大きいですよね。
できればその場で自己負担限度額までしか支払わなくて済むようにしたい・・・
「限度額適用認定証」があればそれが可能です。
医療費が高額になりそうな場合には,保険者に申請をすれば,「限度額適用認定証」が送られてきます。
「保険適用の治療に限る。そして月あたり医療費の金額で判断される。」などの条件※は付きますが,これがあれば病院の窓口では,高額療養費制度の自己負担限度額だけの負担になりますし,「医療費はいくらかかるのだろう」,「ちゃんと払えるかな・・」という不安を解消してくれるので,心理的にもかなりの負担減になると思います。
※その他,差額ベッド代などの保険対象外の費用や入院時の食事代は別途自己負担となります。
法律上や制度上で交通事故後の通院について健康保険が利用できないという制限はないので,本来ならどこの病院でも健康保険が使えるべきです。
しかし,病院によっては健康保険に対応してないところもあります。これは,自由診療にするか保険診療にするかで,病院に入ってくる診療報酬の金額が大きく変わってくるためです。健康保険等を利用した場合の診療報酬の点数単価は10円とされているのに対し,自由診療の場合は医師と患者の話し合いにより自由に単価を決定することができるため,概ね1点20円前後としている病院が多いと言われています。また,保健医療機関ではない病院で健康保険の使用を断られる場合もあります。
健康保険の利用を希望しているにも関わらず,病院が対応をしてくれない場合には,病院を変えることをおすすめします。
国保や健康保険を使って治療を受ける保険診療は,健康保険法などの法律に基づいて使用できる薬剤の種類・量,リハビリの回数などに制約があるのに対し,自由診療は保険診療の制約なしに自由に治療をすることができますが,一般的に軽傷の治療においては,自由診療と保険診療に大きな差はないと言われております。
しかし,重傷の場合には,自由診療だと保険が適用されない先進医療が受けられたり,日本では保険適用が認められていない薬が使えたりするなど,保険診療よりも高度な内容の治療を受けられる可能性があります。
しかし,「交通事故による受傷で,自由診療でなければできない治療はほとんどないといわれている」(北河隆之『交通事故損害賠償法』平成23年4月15日・弘文堂・101頁)とする文献もありますので,健康保険を利用するメリット・デメリットを踏まえた上で,専門家である医師にも相談し,実際に自分がどうすべきかを選択することが重要であるといえます。
交通事故の被害に遭い,ケガの治療を行っているにもかかわらず,加害者側の保険会社が治療費を支払ってくれないというケースがあります。
たとえば,加害者側に責任がないことを加害者側が証明できるなど,事故の原因等について何らかの問題がある場合などです。
また,そもそも,相手方が任意保険に加入していないと任意保険会社から支払ってもらえません。
以上のような場合に,自費で治療を行うと費用が高額になってしまいます。そのため,健康保険を利用して通院することをおすすめします。
被害者のケガが「症状固定」になるまでは,原則として保険会社に治療費を請求することができ,通常は保険会社が病院に対し直接治療費の支払いをしてくれます。しかし,通院が数ヵ月以上の長期におよぶと,相手保険会社が「そろそろ症状固定としましょう」などと言ってきて,治療費の支払いを一方的に打ち切ろうとする場合があります。
この場合,保険会社の言うとおり治療を止めてしまうと,再び治療費の支払いを開始してもらうことはかなり難しくなります。安易に受け入れないように注意しましょう。
そもそも,症状固定の時期は医師が判断するものであり,保険会社に判断できるものではありません。主治医に意見書などを書いてもらって治療継続の必要性を主張することで,治療費の支払いを受けられる可能性があります。
また,万が一治療費を打ち切られてしまっても,医師が未だ症状固定ではないと判断をしている場合には,自分の健康保険を利用して症状固定まで通院を継続することが大切です。そして,事故直後の診断書や支払いの際の診療報酬明細書などの資料はすべて保存しておきましょう。
被害者側に何らかの過失がある場合,のちに過失相殺をされる可能性があります。治療費がどの程度になるかにも寄りますが,健康保険を利用して通院することで治療費が抑えられるため,最終的に得られる賠償金が高くなる可能性があります。
また,加害者側が,被害者側の過失が大きいと判断している場合には,加害者側の任意保険会社が病院への治療費等の支払いをしてくれない場合があり,その場合には,一旦自分で治療費等を支払う(立て替える)必要があります。
自賠責保険についても,被害者側の過失が大きいと,治療費等の支払額が大幅に減額されたり,支払いが行われなかったりすることもあります。自己負担を減らす意味でも,やはり健康保険を利用して通院することをおすすめします。
「交通事故が原因のケガの治療では健康保険を使用できない」との誤解から,自由診療による治療を受けられている方もいらっしゃるかと思います。では,そういった方が途中から健康保険に切り替えをすることはできるのでしょうか?
結論からいうと,途中から健康保険に切替えをすることは可能です。
既に治療を受けた分にまで遡り,健康保険での治療扱いにできるかは治療機関との交渉次第のようですが,切り替えが早いほど,交渉が成功する確率は高まるようです。
ただ,治療機関の経理などの手続上,一旦自由診療として手続を完了してしまった後ですと,遡って健康保険での治療扱いにする交渉は難しいようです。
交渉により,既に治療を受けた分まで遡って健康保険での治療扱いにできた場合,下記との差額が返金されることになります。
交通事故後,医療機関において診療を受ける場合には,まず医療機関に対し,診療に健康保険を使用したい旨を明確に申し出ましょう。
とある損害保険協議会では,健康保険証の提示は単なる身分や氏名を確認する意味しかないと捉えられていますので,「健康保険を使いたい」いう明確な意思表示をすることを忘れないようにしてください。
なお,初診時に提示できなかった場合でも,初診からの健康保険対応を認めてくれる医療機関もありますので,被保険者証を提示できる状況になり次第,早期に申し出をするようにしてください。
交通事故のケガで健康保険証を使用する場合は,「第三者行為による傷病届」が必要です。
加害者のいる交通事故の場合,相手方の保険会社(自賠責保険や任意保険)にケガの治療費を負担してもらいますが,健康保険を使用することで,治療費を健康保険事業の運営主体(以下,保険者)に一部立て替えてもらうことになります。そのため,「第三者行為による傷病届」は,後日保険者から相手方の保険会社へ,健康保険給付をした費用を請求するために必要な書類となります。
届書をすぐに提出できない場合でも,取り急ぎ事故の状況を電話等で保険者に届け出ておき,後日できるだけ早く書類を提出すれば問題ありません。「第三者行為による傷病届」に加えて,「交通事故証明書」・「負傷原因報告書」・「交通事故発生状況報告書」・「損害賠償金納付確約書・念書」・「同意書」などの提出が必要です。
最後に,健康保険とは関係ありませんが,健康保険と同じように被害者の負担を減らしてくれる制度についてご紹介しておきます。
交通事故による負傷の治療が長引くと,治療費の負担が重く,支払が困難になることが予想されます。
そのような場合には,下記のような制度を利用されることをおすすめします。
仮渡金制度とは,自賠法(自動車損害賠償保障法)17条に定められている請求方法で,損害賠償金の確定前に,被害者の方が相手側の自賠責保険会社に前もって治療費を請求できるという仕組みのことです。
受傷の程度に応じて仮渡金を支払うことが定められており,請求をすれば通常,1週間~10日ほどで支払われます。
ただし,1度しか請求できず,最終的な損害額よりも多い金額を受け取ってしまった場合には差額を返還する必要がありますので,注意が必要です。
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