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高次脳機能障害をめぐる問題点

目次

1.問題点

高次脳機能障害は、いまだ未知の部分が多いことから、以下のような問題があるとされています。

(1)患者やご家族の苦しみ

高次脳機能障害については、従来から、「見過ごされやすい障害」という大きな特性があります。それゆえに、多数の高次脳機能障害の患者の方が、その障害に気づかない、または気づいたとしても家族や周囲に理解されない、という苦しみを重ねている現状があります。また、実際に高次脳機能障害の症状にあるのに、高次脳機能障害の理解・認識や、認定システム等が充実していないために、むちうち症などの症状しか認められず、後遺障害非該当ないし後遺障害12級ないし14級の認定にとどまり、正当な補償が受けられないという苦しみを抱えている患者も多数います。

(2)医療の現場

医療の現場においても、「むちうち症は頸椎等の身体の疾患である」という考えからか、むちうち症をその他の神経学的検査に結びつけて診断しようとする医師は少ないようです。むちうち症が脳に負担をかけ、これが原因となって、軽度外傷性脳損傷(MTBI)をひきおこすというケースが近時は多数報告されています。この、MTBIが高次脳機能障害につながることもあるのです。

医療の現場においても高次脳機能障害という症状の発見が見逃されやすい状況にあるといえるでしょう。高次脳機能障害の患者が後遺障害の認定を受けられない原因として、医療関係者の認識不足、診断書への記載不足、画像所見等の資料不足等が影響していることは否めないと思われます。

(3)自賠責の認定システム

これまでの自賠責の認定システムでは、「画像所見がない限りは、自賠責保険認定上は、一切高次脳機能障害を認めない」という診断基準が用いられてきました。

しかし、高次脳機能障害については、画像所見上明らかな異常が認められないにもかかわらず、その症状が認められるというケースが多数報告されています。特に、軽度外傷性脳損傷においては、1.CTではほとんどのMTBI症例で所見が認められない、2.MRIでは約半数の症例で所見が認められない、といった特徴があります。高次脳機能障害は、その症状が重篤かつ長期にわたる可能性があるにもかかわらず、重度の外傷と違って、画像で異常が確認できるとは限らないという問題があり、これが原因で、見逃されやすい障害になっているといえます。

このような状況のもと、高次脳機能障害を発症しているにもかかわらず、自賠責の後遺障害認定が下りないというケースが多数存在していると指摘されてきました。上記のような自賠責の認定システムでは、高次脳機能障害患者の見落としが防ぎきれないのは明らかでした。

(4)裁判所の判断

最後の砦ともいえる裁判所の判断も、高次脳機能障害の「見えない障害」を認定するには慎重にならざるを得ないためか、裁判所独自の見地から高次脳機能障害の認定をする姿勢はなかなか見られませんでした。裁判所は、残念ながら、自賠責の認定をいわば追認することがほとんどでした。

(5)まとめ

このように、近時にいたるまで、高次脳機能障害に対する社会的認識等が不足し、自賠責保険における高次脳機能障害の認定システムは不完全で、裁判所もこれを事実上追認するという運用であったため、高次脳機能障害の患者の保護は、はなはだ不十分であったと言わざるを得ないでしょう。

2.これまでの自賠責の認定基準

自賠責保険において高次脳機能障害が後遺障害認定されるには、これまで、

1.脳の損傷が画像で認められる
2.意識障害が一定期間続いた
3.人格の変化や記憶の低下が著しい

という三要素を満たす必要があるとされていました。画像所見がない限りは一切、高次脳機能障害の後遺障害等級を認めないという立場が貫かれていたのです。この運用によれば、画像所見がない限り、自賠責保険による後遺障害等級が認められず、故に裁判所にも認められないため、泣き寝入りをせざるを得ない高次脳機能障害患者が後を絶たなかったといえます。

3.重要判例(札幌高裁平成18年5月26日判決)

「画像所見がない限り高次脳機能障害と認めない」という考え方をみごとに打ち破ったのが、札幌高裁平成18年5月26日判決です。この札幌高裁判決については、最高裁において上告を退けており、判決は確定しています。ゆえに、今後の裁判例においても重要な役割を果たす判決といえるでしょう。

(1)札幌高裁平成18年5月26日判決

事案の概要

札幌市内の女性(25歳)が事故を起こした運転手(35歳)に対し、記憶力などの人間らしい脳の働きが著しく低下し、日常生活を満足に送れなくなったのは交通事故に遭い高次脳機能障害を負ったからだとして、約1億2,000万円の損害賠償を求めた事案です。第一審札幌地裁判決は、自賠責保険の判断と同様、高次脳機能障害を認めず、女性に対する損害賠償として、通院慰謝料約240万円の支払いしか認めませんでした。

争点

自動車損害賠償保障法(自賠法)では、高次脳機能障害として後遺障害と認定されれば保険金が支払われます。自賠責保険において高次脳機能障害が後遺障害と認定されるには、

1.脳の損傷が画像で認められる
2.意識障害が一定期間続いた
3.人格の変化や記憶の低下が著しい

という三要素を満たす必要があるとされていました。このケースの女性は、1と2を満たさず、自賠責保険における後遺障害は非該当という結果であったため、女性を高次脳機能障害と認めるかどうかが争点でした。

札幌高裁の判断

第1審の判決を覆し、女性が交通事故によって高次脳機能障害になったと認定し、約1億1,800万円の支払いを命じる逆転判決を言い渡しました。裁判官は、その理由として、「高次脳機能障害は最近ようやく社会的に認識されるようになり、現段階では外見からは診断が困難な場合もある。このため患者に対する保護が不十分なケースがある。それらの事情や、女性の事故後の症状と生活を考慮し、女性は事故で高次脳機能障害を負ったと判断した」と述べています。

(2)その後の裁判例

東京高裁判決(平成20年1月24日判決:自保ジャーナル1724号)

画像所見がない場合でも準高次脳機能障害として認定しうる場合がありうることを認めました。この判決では被害者を高次脳機能障害ではないと認定したものの、高次脳機能障害について、慎重に検討すべき姿勢が見てとれます。

大阪高裁判決(平成21年3月26日判決:自保ジャーナル1780号)

この事案は、事故後約3週間経ってから、高次脳機能障害を伺わせる症状が発症した事案です。自賠責保険の認定においては、MRI画像等で画像所見がないことを理由に、外傷による高次脳機能障害を否定し、後遺障害14級9号にとどまると判断され、大阪地裁(第1審)もこれを支持しました。しかし、大阪高裁は、この判断を覆し、「画像所見がなくとも、事故態様やその症状経過から脳外傷による高次脳機能障害を認めるべき場合がある。」として、脳外傷による高次脳機能障害(9級相当)の後遺障害を認定しました。

4.自賠責の認定システムの充実

(1)認定システム充実の必要性

従来から、自賠責の高次脳機能障害認定システム※1については、「現行の認定システムでは認定されない高次脳機能障害が存在する。」との指摘がありました。これを受けて、平成22年7月に、国土交通省から損害保険料率算出機構に対して検討を指示し、同9月に同機構内に検討委員会が設置され、外部専門家の意見陳述、委員の意見発表、文献のレビュー踏まえた検討が行われ、平成23年3月4日付にて、自賠責の高次脳機能障害認定システムが充実されることが決定されました。これに基づく運用は、平成23年4月1日から開始されています。

(2)高次脳機能障害審査会の審査対象の拡大

充実の内容のひとつとして、脳神経外科や精神神経科などの専門医を審査会委員として構成される高次脳機能障害審査会の審査対象が拡大されました。以下の1つでも当てはまる事案については、平成23年4月より、特定事案として、高次脳機能障害審査会にて判断されることになりました。

1.初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
2.初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる症例
(注)具体的症状として、以下のようなものが挙げられる。
知能低下、思考・判断能力低下、記憶障害、記銘障害、見当識障害、注意力低下、発動性低下、抑制低下、自発性低下、気力低下、衝動性、易怒性、自己中心性
3.経過の診断書において、初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症例
4.初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過の診断書において、「当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁、GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例
5.その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

【参考】語句の説明
※1「高次脳機能障害認定システム」

「高次脳機能障害が問題となる事案」について、診療医に対する受傷後の詳細な意識障害の推移、高次脳機能障害の内容・程度の照会、被害者側への日常生活状況の確認等、詳細な情報を得たうえで、専門医を中心とする自賠責保険(共済)審査会高次脳機能障害専門部会が後遺障害等級を認定するシステムのことです。

5.認定システム充実の内容

認定システム充実の概要は以下のとおりです。自賠責保険における高次脳機能障害の認定については、以下の検討結果に沿った体制整備を実施し、平成23年4月から見直し後の認定システムを運用しています。

(1)「脳外傷による高次脳機能障害」の医学的な考え方の整理

1 軽症頭部外傷後の高次脳機能障害

軽症頭部外傷については※2参照

WHO報告(MTBI※3に関する2004年以前の医学論文の系統的レビューを踏まえた診断基準や考察。日本より幅広く高次脳機能障害を認定するもの。)を参考にするとともに、それ以外にも内外の各種文献、外部専門家の意見陳述や委員による軽症頭部外傷患者の臨床例等も踏まえると、(i)MTBIの受傷直後に把握される障害は、大多数の患者で3ヵ月から1年以内に回復する、(ii)一部の患者で症状が遷延することがあるが、心理社会的因子の影響によるという考え方が有力、とされていることなどから、軽症頭部外傷後に1年以上回復せずに遷延する症状については、それがWHOの診断基準を満たすMTBIとされる場合であっても、それのみで高次脳機能障害であると評価することは適切ではない。

ただし、軽症頭部外傷後の脳の器質性損傷の可能性を完全に否定できないという医学論文も存在することから、このような事案における高次脳機能障害の判断は、症状の経過、検査所見等も併せ慎重に検討されるべきである。

2 脳機能の客観的把握(画像診断の進歩について)

脳の器質的損傷の判断にあたっては、従前と同じくCT、MRIが有用な資料であると考える。ただし、これらの画像も急性期から亜急性期の適切な時期において撮影されることが重要である。

なお、CT、MRIで異常所見が得られていない場合に、拡散テンソル画像(DTI)、fMRI、MRスペクトロスコピー、PETで異常が認められたとしても、それらのみでは、脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。

(2)現行認定システムの修正等

1 審査の対象とする条件の明確化

高次脳機能障害事案として審査の対象を選定するためのこれまでの5条件については、意識障害や画像所見など一部の条件に達しない被害者は、現場の医師に高次脳機能障害ではないと形式的に判断されているおそれがあるのではないかとの指摘があったことから、軽症頭部外傷の被害者が審査対象から漏れることのないよう記載方法を修正する。

2 調査手法の改善

脳外傷による高次脳機能障害を的確に後遺障害等級認定するためには、意識障害の程度・期間を適切に把握することが重要であることから、照会様式の一部改正を行う。

3 症状固定時期の考え方

被害者が学齢期前の小児の場合、その成長・発達に伴い、社会的適応に問題があることが明らかになることで、被害者に有利な等級認定が可能となる場合もあることから、そのような要素があると考えられる事案については、社会的適応障害の判断が可能となる時期まで後遺障害等級認定を待つという考え方もあることを周知することが望ましい。

【参考】語句の説明
※2「軽症頭部外傷」

「頭部に何らかの外力が加わった事故のうち軽度なもの」を言います。

※3「MTBI(Mild Traumatic Brain Injury)」

WHO(世界保健機関)共同特別専門委員会の診断基準によれば、以下のとおりとなります。
【WHOにおけるMTBIの診断基準】
MTBIは、物理的外力による力学的エネルギーが頭部に作用した結果起こる急性脳外傷である。臨床診断のための運用上の基準は以下を含む:
(i)以下の一つか、それ以上:混乱や失見当識、30分あるいはそれ以下の意識喪失、24時間以下の外傷後健忘期間、そして/あるいは一過性の神経学的異常、たとえば局所神経徴候、けいれん、手術を要しない頭蓋内病変
( ii )外傷後30分の時点あるいはそれ以上経過している場合は急患室到着の時点で、グラスゴー昏睡尺度得点は13-15。上記のMTBI所見は、薬物・酒・内服薬、他の外傷とか他の外傷治療(たとえば全身の系統的外傷、顔面外傷、挿管など)、他の問題(たとえば心理的外傷、言語の障壁、併存する医学的問題)あるいは穿通性脳外傷などによって起きたものであってはならない。

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