交通事故の過失割合を9対0にする片側賠償とは?仕組みやメリット、注意点などを紹介

交通事故の過失割合は、8対2や7対3のように合わせて10となるのが通常ですが、事故当事者の話合いで9対0とすることもできます。
この「過失割合を9対0とする」賠償方法を「片側賠償」といい、過失割合に関する争いを長期化させないための折衷案です。
ただ、被害者側と加害者側の思惑が一致しないと紛争解決に至らないため、なかなか簡単には進まないでしょう。
そこで、今回は、片側賠償の概要やメリット・デメリット、行う際の注意点などについて解説します。
- この記事でわかること
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- 片側賠償とは何か
- 片側賠償を行うメリット・デメリット
- 片側賠償を行う際の注意点
- 目次
片側賠償とは
片側賠償とは、事故の当事者双方に過失がある状況で、「片側の人だけが賠償をすること」です。過失割合を9対0にする賠償方法です。
通常、過失割合は8対2や7対3のように合わせて10となります。
ですが、片側賠償によって「過失割合を9対0にする」=「被害者側の過失の1割に対する損害賠償請求権を加害者側が放棄する」ことを意味しており、被害者は加害者に生じた損害を補償する必要がなくなります。
なぜ片側賠償という仕組みがあるのか
片側賠償という仕組みがあるのは、過失割合について当事者双方が譲り合って争いを解決する方法が必要だからです。
【当事者双方の言い分】
被害者:「自分に過失はないから過失割合は10対0だ。被害者である自分にも過失割合が付き、過失相殺によって賠償金が減ってしまうなんて納得がいかない。」
加害者:「過失割合は9対1だ。少しでも賠償金額を減らしたい。」
上記のように事故の当時者がお互いに、過失割合について譲らないということは多くあります。ただ、折り合いが付かないと、いつまで経っても示談ができませんし、長期化すれば費用もかかります。
そのようなことを避けるため、過失割合について当事者双方が合意できない場合の妥協案として、過失割合を「9対0」とすることがあるのです。

過失割合9対1と9対0の違い
「過失割合9対1」と「過失割合9対0」の違いは下記です。
9対1 | 9対0 | |
---|---|---|
被害者の過失 | 1割 | 1割 |
被害者が受け取れる賠償金額 | 9割 | 9割 |
被害者の支払い | 1割 | なし |
ここで、覚えておきたいのは、「過失割合9対0」は被害者の過失が0になったというわけではなく、加害者が被害者に対する損害賠償請求を放棄した結果、被害者が支払う賠償金額が0になった、ということです。
過失割合9対0の計算例
過失割合9対0の計算例を見てみましょう。
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 9 | 0 |
損害額 | 200万円 | 700万円 |
請求できる金額 | 0円 | 630万円 |
【被害者が加害者に請求できる金額】
700万円×90%=630万円
【加害者が被害者に請求できる金額】
200万円×0=0円
被害者は過失0ですので、最終的に被害者が受け取れる金額は630万円です。

これを過失割合9対1、および過失割合10対0のケースと比較すると、下記のようになります。
過失割合9対1のケースの計算例
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 9 | 1 |
損害額 | 200万円 | 700万円 |
最終的な請求金額 | 0円 | 610万円 |
【被害者が加害者に請求できる金額】
700万円×90%=630万円
【加害者が被害者に請求できる金額】
200万円×10%=20万円
【被害者の過失分を引いた最終的な請求金額】
630万円-20万円=610万円
被害者にも過失が生じているため、被害者が最終的に請求する金額は610万円です。
過失割合9対0のケースと比べて20万円の減額です。

過失割合10対0のケースの計算例
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 10 | 0 |
損害額 | 200万円 | 700万円 |
請求できる金額 | 0円 | 700万円 |
【被害者が加害者に請求できる金額】
700万円×100%=700万円
【加害者が被害者に請求できる金額】
200万円×0=0円
被害者は過失0ですので、損害額の全額である700万円を加害者に請求できます。また、被害者から加害者への支払いはありません。
過失割合9対0のケースと比べて70万円増額します。

片側賠償のメリット・デメリット
片側賠償を行う際のメリット・デメリットをご紹介します。
メリット
片側賠償を行うメリットは下記です。
- 加害者側に賠償金を支払う必要がなくなる
- 保険の等級が下がらないで済む
- 示談交渉を保険会社に依頼できる
- 示談交渉が早期に解決する可能性がある
1.加害者側に賠償金を支払う必要がなくなる
上記でもご説明したとおり、片側賠償を行うことで、被害者は、加害者から請求された賠償金を支払う必要がなくなります。
2.保険の等級が下がらないで済む
加害者に賠償金を支払わなくてよいのであれば、対人・対物賠償保険を使う必要がありません。
対人・対物賠償保険は事故の相手に支払う賠償金を保険金でカバーしてくれるものですが、利用した場合には、保険の等級が下がり翌年の保険料が上がってしまいます。
片側賠償を行うことで、保険の等級が下がって翌年の保険料が上がることを防げるのです。
3.示談交渉を保険会社に依頼できる
過失割合が「10対0」の場合には、「0」の側である被害者に過失が認められないため、任意保険会社の示談交渉サービスを利用することができません。(非弁行為という法律違反にあたる)
ですから、被害者の方ご自身で相手方保険会社と示談交渉を進めることになります。
しかし、片側賠償(過失割合9対0」)の場合、「0」とはなっていても、被害者側が一定の過失割合を認めることを前提にしています。
ですから、任意保険会社の示談交渉サービスを利用して解決を図ることが可能です。
4.示談交渉が早期に解決する可能性がある
被害者が、自分自身に事故についての過失があることに納得できなければ譲歩は望めず、話合いが長期化するおそれがあります。
このような場合に折衷案として過失9対0を提案することで、当事者双方の合意を引き出せる可能性が高くなり、早期解決が期待できます。
デメリット
片側賠償を行うデメリットは下記です。
受け取れる賠償金が減額する
過失割合9対0の場合、被害者が受け取れる賠償金は請求した損害額の9割のみです。
一方で、過失割合10対0の場合、被害者は損害額の全額を受け取ることができます。
きちんと理解しないまま片側賠償で示談してしまうと、適切な賠償金を受け取れないおそれがありますので、注意しましょう。
片側賠償を行ったほうがいいケース
では、片側賠償を行ったほうがいいケースとは、どんな場合なのか見てみましょう。
加害者側から請求されている損害額が高額な場合
加害者側から請求されている損害額が高額な場合、たとえ被害者側の過失が1割だとしても高額な支払いが発生してしまいます。
たとえば、加害者側の車が高級車で修理に500万円かかる場合、被害者側の過失が1割だとすると50万円を負担しなければならないことになります。
加害者から支払ってもらう賠償金額よりも高額になって、被害者なのに自分の支払額のほうが多くなってしまうこともあり得ます。
このような場合、片側賠償での解決ができれば、被害者側も納得しやすいでしょう。
過失割合をめぐって示談交渉が難航している場合
示談交渉において、被害者側が過失10対1と考えているにもかかわらず、加害者側が過失割合9対1や過失割合8対2を主張してくることがあります。これは、過失相殺によって被害者に支払う賠償金額を少しでも減らしたいからです。
被害者側としては10対0を主張し続けたいところですが、過失割合9対0で合意すれば、加害者への支払いがなくなるため、受け取れる賠償金額は過失割合9対1より増えます。
早く示談をすればその分早く賠償金を受け取れることにもなるため、片側賠償を行うのがおすすめです。
片側賠償を行う場合の注意点
片側賠償を行う際に注意したい点として挙げられるのは、「片側賠償は任意である」ということです。
加害者側が任意で「早期に解決するために、損害賠償請求権を放棄する」と言ってくれれば実現できます。
弁護士が示談交渉をしたからといってうまくいくとは限らないため、注意が必要です。
示談代行サービスが使えても過失割合の交渉を弁護士に依頼するメリット
片側賠償は、ご自身が加入されている任意保険会社の示談交渉サービスの枠内で行うことができるため、「示談交渉は保険会社に任せておけば安心」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
ですが、示談代行サービスが使える場合でも、弁護士に依頼すると下記のようなメリットを受けられるため、おすすめです。
1.過失割合に関する適切なアドバイスがもらえる
2.交通事故の示談交渉をすべて任せられる
3.最終的に受け取る賠償金額の増額が期待できる
1.過失割合に関する適切なアドバイスがもらえる
加害者側の保険会社から提示された過失割合の妥当性について、法律家の視点からチェックしてもらったうえで、適切なアドバイスを受けることができます。
2.交通事故の示談交渉をすべて任せられる
示談交渉そのものはもちろん、治療頻度や後遺障害等級など、適切な賠償金を受け取るために必要な手続などについてもアドバイスやサポートを受けることができます。
3.最終的に受け取る賠償金額の増額が期待できる
交通事故の慰謝料などを算定するにあたり3つの算定基準がありますが、弁護士は、通常もっとも金額が高くなる弁護士基準(裁判所基準)を用います。
そのため、保険会社に交渉してもらうよりも、最終的に受け取る賠償金額の増額が期待できます。
まとめ
過失割合についての当事者間の話合いで折合いがつかない場合、片側賠償を行ったほうがスムーズに解決するケースもあります。
ただし、デメリットや注意点もあるため、慎重な判断が必要です。
片側賠償を行うべきか迷っている方は、ぜひ交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。
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