交通事故の慰謝料が過失割合で変わるのはなぜ?基礎知識と納得できない場合の対処法

交通事故にあった被害者は加害者に慰謝料を請求できますが、事故の発生に関して被害者にも落ち度(過失)があった場合、慰謝料が減額されます。
また、過失の影響は慰謝料だけにとどまらず、治療費などを含む賠償金額が変わってしまいます。
ですから、適切な賠償金を受け取るためには、加害者側と示談交渉をする前に、過失割合の影響について知っておくことが大切です。
そこで、このコラムでは、過失割合で慰謝料額がどのように変わるのか、適切な慰謝料を受け取るためにできる対応策などについて解説します。
過失割合や慰謝料についてこれから示談交渉を行う方や示談交渉中の方は、ぜひご一読いただければと思います。
- この記事でわかること
-
- 過失割合が慰謝料額に与える影響
- 過失割合で慰謝料額はいくら変わるのか
- 適切な慰謝料を受け取るためにできること
- 目次
過失割合で慰謝料額が変わる理由
過失割合で慰謝料額が変わるのは、過失相殺という決まりがあるからです。
過失相殺とは、「被害者側に過失がある場合には、その割合に応じて慰謝料額を減額する」という仕組みです。
「交通事故の発生原因について、加害者・被害者双方に責任があるのに、被害者の過失まで加害者が責任を負うのは不公平である」ということから、過失相殺という制度が民法で定められています。
交通事故の慰謝料と過失割合
適切な慰謝料額の目安を知るために、まず慰謝料や過失割合について知っておきましょう。
慰謝料とは
交通事故の慰謝料とは、精神的・身体的な苦痛や損害に対して支払われるお金のことで、「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」、「後遺症慰謝料(後遺障害慰謝料)」、「死亡慰謝料」の3つがあります。
慰謝料の支払い基準として、「自賠責保険基準」、「任意保険基準」、「弁護士基準(裁判所基準)」の3つがあります。
過失割合とは
過失割合とは、交通事故に対する被害者と加害者のそれぞれの責任の割合を表したもので、最終的な損害賠償額を算出する際に使用されます。
過失割合はそもそもどうやって決まるのか?
事故の当事者同士の話合いで決める
過失割合は、基本的には事故の当事者同士の話合いで決めます。ただし、実際には保険会社の担当者や弁護士が当事者の代理人となって交渉するケースが多いです。
過失割合を決める流れ
過失割合は、以下のような流れで決めていきます。
- 当事者間で事故状況を擦り合わせて明確にする
- 事故の状況や過去の裁判例をもとに「基本の過失割合」を出す
- 具体的な行為態様などをもとに「修正要素」を検討し、修正する
- 話合いを繰り返し、当事者双方の合意のもとに最終的な過失割合を決める
事故類型や修正要素によって過失割合は異なる
基本の過失割合はあるものの、事故類型や修正要素によって過失割合は変わることが多いです。
【具体例】
- 前方を走る車Aが進路を変更し、後続を走行していた車Bが接触する事故
- 基本の過失割合は車Aの過失が7割、車Bが3割

ただし、車Aがウィンカーの合図なしで急な進路変更をしたために車Bが追突してしまった場合、車Aの過失は9割に増えます。
車Aに過失が発生するケースの事故類型は「自動車同士」、修正要素は「ウィンカーの合図なし」です。
過失割合の決め方について、さらに詳しく知りたい方は下記コラムをご覧ください。
被害者側に過失割合が認められた場合の慰謝料の計算例
被害者側に過失割合が認められた場合の入通院慰謝料を、弁護士基準を使って計算してみましょう。
【計算例】
- むち打ち症(他覚的所見なし)の場合(別表Ⅱを用いる・例外)
- 交通事故によるケガで1ヵ月入院したのち、6ヵ月通院して完治
- 被害者に認められた過失割合は2割
- 1ヵ月入院したのち、6ヵ月通院して完治した場合の入通院慰謝料は弁護士基準だと113万円
- 113万円の2割である22万6,000円が減額される
- 113万円―22万6,000円=90万4,000円が請求できる
このように、被害者にも過失が認められた場合、請求できる入通院慰謝料が減ってしまいます。
過失割合と慰謝料に関するポイント
過失割合が慰謝料額に与える影響について、おわかりいただけたかと思います。
そのほか、過失割合と慰謝料について、交通事故被害者が知っておくべきポイントをまとめました。
提示された過失割合を忘れずにチェックする
被害者の過失割合が大きければ大きいほど、過失相殺によって慰謝料は減額されてしまいます。
ですから、加害者側から示談内容を提示された場合には、慰謝料額などの金額を確認するだけでなく、過失割合をチェックすることを忘れないようにしましょう。
過失割合で減額されるのは慰謝料だけではない
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、交通事故の慰謝料は加害者側に請求できる賠償金の一部です。
賠償金には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料といった慰謝料のほか、治療費、休業損害、逸失利益なども含まれます。
過失割合の影響は、この賠償金全体に及びます。
たとえば、被害者にも過失があってその割合が2割であれば、被害者が請求できる賠償金は全額の8割になります。
【過失相殺の計算例】
被害者の損害が400万円、加害者の過失割合が8割、被害者の過失割合が2割の場合
- 被害者の過失による損害:400万円の2割である80万円
- 被害者の請求できる賠償金額:過失相殺として400万円から80万円を引いた320万円のみ
適切な賠償金を受け取るには、加害者側から提示された過失割合の妥当性について慎重に検討し、示談交渉を行う必要があります。
自賠責保険から支払われる慰謝料は減額されない場合がある
任意保険から慰謝料が支払われる場合、被害者の過失割合分だけ慰謝料が減額されます。
これに対して、自賠責保険から支払われる慰謝料については、被害者の過失が7割未満であれば減額されることはありません。
これは、自賠責保険が、交通事故にあった被害者救済を主な目的としているためです。
被害者の過失割合 | 減額の割合 (傷害のみ) | 減額の割合 (後遺障害または死亡) |
---|---|---|
7割未満 | 減額なし | 減額なし |
7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 | 2割減額 |
9割以上10割未満 | 5割減額 | 2割減額 |
被害者の過失が7割以上(重大な過失がある)になると、上記の表のとおり慰謝料は減額されます。
ただし、後遺障害がない傷害事故の場合、自賠責保険の支払限度額は慰謝料や治療費などを含めて120万円と低額であるため、不足分については任意保険会社に請求することになります。
過失割合や慰謝料額に納得できない場合の対処法
過失割合が決まらないと、いつまで経っても示談することができません。
過失割合や慰謝料額に納得できずもめている場合の対処法としては下記があります。
- 裁判所の手続を利用する
- ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する
- 弁護士に相談・依頼する
それぞれのメリット・デメリットがあるため、きちんと理解したうえで利用するようにしましょう。
①裁判所の手続を利用する
裁判所における手続としては、調停と裁判(訴訟)があります。
調停
裁判所に調停案を提示してもらって当事者双方の合意を目指す方法です。
【メリット】
・裁判(訴訟)より費用がかからず、かつ早期の解決が見込める
【デメリット】
・事故の当時者双方の同意が必要
・仲介者である調停委員は中立的な立場であるため、被害者の立場で交渉することはない
裁判(訴訟)
裁判手続のなかで過失割合を決定し、紛争を解決する方法です。
【メリット】
・当事者間の合意がなくても解決できる
【デメリット】
・費用や時間がかかる
・法律に基づいた主張が必要なため、被害者の方ご自身での対応は困難
②ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する
交通事故紛争処理センターなどの、ADR(裁判外紛争解決手続)機関に和解案を提示してもらい、当事者双方の合意を目指す方法です。
【メリット】
・無料で利用できる
【デメリット】
・事故の当時者双方の同意が必要
・原則として、終了まで相談担当者の弁護士を変更できない
・仲介者である担当弁護士は中立的な立場であるため、被害者の立場で交渉することはない
③弁護士に相談・依頼する
ご自身で対応するのが負担という方は、弁護士に依頼することを検討しましょう。
【メリット】
・実況見分調書や過失相殺の認定基準、過去の裁判例などをもとに適切な過失割合を算定し、その結果から加害者側が提示する過失割合の妥当性を判断することができる
・被害者の方に有利となる証拠や過去の裁判例、追加すべき修正要素などの根拠を示しながら、加害者側の保険会社に適切な過失割合を主張してもらえる
・訴訟に発展しても対応を任せられる
【デメリット】
弁護士費用がかかる。弁護士費用が心配な方は、弁護士費用特約が利用できるかご確認ください。
まとめ
交通事故では、被害者にも過失割合が発生することが多くあります。
被害者に過失割合が認められた場合、慰謝料額が変わるだけでなく、治療費や休業損害などを含む賠償金額全体に影響があります。
加害者側の保険会社から過失割合を提案されることがありますが、過失割合や慰謝料額に納得できないのであれば、妥協しないで交渉することが大切です。
過失割合や慰謝料額についての示談交渉がうまく進まない場合には、交通事故に詳しい弁護士への相談を検討されることをおすすめします。
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