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外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)に関する等級改正の経緯

目次

1.後遺障害等級が改正された理由

外貌醜状の後遺障害等級は、現在は性別に関係なく同じ基準が設けられていますが、2011年以前は、男女で違う基準が設けられていました。では、なぜ、基準が改正されたのでしょうか?そのきっかけとなった判決をご紹介いたします。

2.平成22年5月27日京都地方裁判所違憲判決

平成22年5月27日、京都地方裁判所は、労働者災害補償保険法施行規則別表第1(障害等級表)に定められた「著しい外貌醜状」に男女で5等級の差異が設定されている部分について、憲法14条第1項に反して違憲との判断を示しました。

この京都地方裁判所の違憲判決は、男子と女子で外貌醜状について等級の差を設けること自体が憲法違反と判断したわけではありません。男子と女子で外貌醜状が労働に与える影響に差異があると判断すること自体には「本件差別的取扱いについて、その策定理由に根拠がないとはいえない」という言い方で、一定の理解を示しています。

しかし、「著しい外貌醜状」について、男女間に5等級もの隔たりがあることに関しては、著しく不合理と判断し、労働者災害補償保険法施行規則別表第1(障害等級表)のうち、著しい外貌醜状について男女間で5等級の差を設けている部分を憲法14条第1項に反し、違憲と判断したのです。

つまり、外貌醜状の等級に男女間で差異を設けること自体を違憲と判断したものではなく、著しい外貌醜状について、男女間で「5等級もの差異」を設けていることに着目して、憲法違反との判断を示したのです。「差別したことがダメ」だというのではなく「差別し過ぎたことがダメ」というのですね。

3.労働者災害補償保険法に関する違憲判決であること

平成22年5月27日京都地方裁判所違憲判決は、労働者災害補償保険法施行規則別表第1(障害等級表)のうち、著しい外貌醜状の等級に男女間で5等級もの差異を設けることを憲法違反と判断するものです。つまり、労働者災害補償保険、いわゆる「労災」に関する違憲判決となります。

「では、交通事故とどういう関係があるの?」と思われた方も多いかもしれません。しかし、国土交通省が示した「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準 第3後遺障害による損害」には「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」と定められています。

このことから、平成22年5月27日京都地方裁判所違憲判決は、自賠責保険および自賠責保険に基づいて賠償額が決定されている交通事故実務にどのように影響を与えるのかが、着目されたのです。

これに応じる形で、平成22年10月9日に開催された「講演 最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」において、鈴木尚久東京地方裁判所民事第27部判事は、醜状障害に関する後遺障害の等級認定表の見直しについて、醜状障害関係の「訴訟に関わるものとしては、見直しの議論の行方を注意深く見守る必要がある」としながら、「もっとも、交通事故の損害賠償請求訴訟は、後遺障害等級認定が前提条件となるものではないため、…この限度ではこの裁判例の影響はなく、今後も主張立証等の内容に変化はないといえます」としています。そのうえで、「後遺障害等級表の見直しがどのようなものであれ、見直し後ににわかに外貌の醜状障害による逸失利益に関する裁判実務上の取扱に変化があるとは考えられません。したがって…今後も…事案に応じた主張立証をしていく必要があるのではないでしょうか」としています。

そして、この講演の直後に出された、秋田地方裁判所平成22年12月14日判決において、交通事故の被害者は、下記のように主張しています。
「外貌醜状障害について、男子を14級、女子を12級とする後遺障害別等級表の基準に従った認定は不合理な差別的取扱いであり、平等原則に反するから、前記2の前額中央の外貌醜状障害については後遺障害別等級表12級14号該当として評価すべきであり、…後遺障害については併合して11級該当事例として算定すべき。」

この判決は、「京都地裁違憲判決の事案は、男女間で12級、7級と5級の開きがある著しい外貌醜状障害が問題となった事案である。しかも京都地裁違憲判決は、男女に差が設けられていること自体が直ちに違憲であるとはいえないとしつつ、上記5級の差は大きすぎるとして違憲としたものであって、本件で問題となっている14級と12級の2級の差については何ら言及するものではない(なお、労災認定上の問題である点でも本件と事案に相違がある)。…今後、実際に労災障害等級表がそのように改正され、それに倣って、自賠法施行令の後遺障害別等級表も同様の改訂がされたとしても、…認定に影響するものではない」として、京都地裁違憲判決や、障害等級表がそのように改正され、それにならって、自賠法施行令の後遺障害別等級表も改訂されたとして、裁判所が行う労働能力喪失率の認定に影響を与えるものではないとの基本的な考え方を示しています。