T字路の優先関係は?交通事故の過失割合と修正要素をパターン別に解説
T字路(丁字路)で車同士の交通事故が起きたとき「どちらの道を走る車が優先?」「自分の過失割合は?」と不安になりますよね。
T字路の交通事故における過失割合は、道路の優先関係に加えどんなT字路だったかによって大きく変わります。
そこでこのコラムでは、T字路で基本的な優先関係や、交通事故のパターン別の詳しい過失割合、過失割合に影響する「修正要素」について解説します。
適切な過失割合を判断するためにも、ご自身の状況と照らし合わせながらぜひ最後までご覧ください。
- この記事でわかること
-
- T字路を走る車の優先関係
- T字路における交通事故の過失割合
- T字路で交通事故の被害にあったときの対処法
- 目次
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T字路ではどっちの道・車が優先?
T字路(道路交通法上は「丁字路」といいます)では、「直線路」を走る車が優先となる交差点が多いです。
その場合、「突き当たり路」から右折・左折して合流する車は、直線路を走る車の進行を妨げてはなりません。
なお、信号機がなく優先道路の判断ができない交差点(T字路を含む)では、左側から進入してくる車が優先される「左方優先(さほうゆうせん)」という考え方もあります。
しかし、「左方優先」のルールが実際に適用される交差点は、住宅地にあるような同程度の道幅で停止線がない交差点などに限定されます。
T字路における交通事故の過失割合を判断する方法
交通事故が起きた場合、双方の責任の度合い(過失割合)に応じて賠償金の金額が決まります。
過失割合は、実際の事故状況をふまえ、相手方や相手方の保険会社と話し合って明確にしなければなりません。
その際には、過去の裁判例などをもとに類型化された過失割合を基準に話合いを行います。
過失割合は、事故類型ごとに「基本過失割合」と呼ばれるベースとなる過失割合が裁判例などをもとに設定されています(※)。
T字路では同幅員でも直線路を走る車が優先という運転慣行があるため、基本過失割合も直線路を走る車の過失が小さく設定されています。
しかし、「基本過失割合」はあくまで基本となる過失割合です。実際には、「修正要素」なども考慮して最終的な過失割合を決めることになります。
- ※ただし、「必ずこれを用いる」というようなルールがあるわけではなく、東京地裁民事交通訴訟研究会や、日弁連交通事故相談センター東京支部などが、それぞれに研究して独自の基本過失割合を設定しています。本コラムでは、一般に交通事故事件実務で用いられることの多い、東京地裁民事交通訴訟研究会による「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺の認定基準全訂5版」をベースに解説しています。
過失割合に影響する修正要素
修正要素とは、交通事故の具体的な事情に応じ、基本過失割合を加算・減算する要素のことをいいます。
T字路の交通事故で考慮される主な修正要素は、以下のとおりです。
T字路の交通事故で考慮される修正要素
| 修正要素 | 具体的な事情 |
|---|---|
| 明らかな先入 | 「突き当たり路」から右左折して合流する車が明らかに先に交差点に進入しており、「直線路」を走る車が衝突を回避できたであろう状態 |
| 一時停止後進入 | 「一時停止規制がある道路」を走る車が一時停止と安全確認を行い、「一時停止規制がない道路」を走る車が近づいていることを認識していたものの、速度・距離の判断を誤り交差点に進入して、減速しなかった相手車両と衝突した状態 |
| 著しい過失 | ・酒気帯び運転 ・脇見運転などの著しい前方不注視 ・ハンドル・ブレーキ操作の著しい不適切 ・携帯電話の使用やカーナビ画面注視などのながら運転 ・時速15km以上30km未満の速度違反 など |
| 重過失 | ・酒酔い運転 ・居眠り運転 ・無免許運転 ・時速30km以上の速度違反 など |
ほかにも、事故が起きた時間帯などによって過失割合が修正されることもあります。
修正要素について、詳しくは以下のコラムでも解説していますので、参考にしてみてください。
【直進車と右左折車】T字路での交通事故の過失割合
以下では、T字路で「直線路を走る直進車」と「突き当たり路からの右左折車」が衝突した場合の、基本過失割合と修正要素をパターン別に解説します。
道幅が同程度の場合

道幅が同程度のT字路で直進車と右左折車が衝突した場合、「直進車A:右左折車B」の基本過失割合は「30:70」です。
道幅が同程度のT字路とは、「直線路」と「突き当たり路」のいずれかが「明らかに広い道路」であるとは言えない場合であり、一時停止規制やセンターラインがない道のことをいいます。
この場合に考慮される修正要素と修正割合は、以下のとおりです
| 修正要素 | 直進車A | 右左折車B |
|---|---|---|
| 右左折車Bの明らかな先入 | +10 | -10 |
| 直進車Aの著しい過失 | +10 | -10 |
| 直進車Aの重過失 | +20 | -20 |
| 右左折車Bの著しい過失 | -10 | +10 |
| 右左折車Bの重過失 | -20 | +20 |
直線路(直進車側)の道幅が明らかに広い場合

直線路(直進車側)の道幅が明らかに広いT字路で直進車と右左折車が衝突した場合、「直進車A:右左折車B」の基本過失割合は「20:80」です。
「道幅が明らかに広い」といえるためには、客観的に見てかなり広い道幅でなければなりません。
この場合に考慮される修正要素と修正割合は、以下のとおりです
| 修正要素 | 直進車A | 右左折車B |
|---|---|---|
| 右左折車Bの明らかな先入 | +10 | -10 |
| 直進車Aの著しい過失 | +10 | -10 |
| 直進車Aの重過失 | +20 | -20 |
| 右左折車Bの著しい過失 | -10 | +10 |
| 右左折車Bの重過失 | -20 | +20 |
突き当たり路(右左折車側)に一時停止規制がある場合

突き当たり路(右左折車側)に一時停止規制があるT字路で直進車と右左折車が衝突した場合、「直進車A:右左折車B」の基本過失割合は「15:85」です。
一時停止規制とは、標識・停止線等で一時停止の表示がある状態をいい、道幅などにかかわらず一時停止規制がある側の過失が大きくなります。
この場合に考慮される修正要素と修正割合は、以下のとおりです
| 修正要素 | 直進車A | 右左折車B |
|---|---|---|
| 右左折車Bの一時停止後進入 | +15 | -15 |
| 直進車Aの著しい過失 | +10 | -10 |
| 直進車Aの重過失 | +20 | -20 |
| 右左折車Bの著しい過失 | -10 | +10 |
| 右左折車Bの重過失 | -20 | +20 |
直線路(直進車側)が優先道路の場合

直線路(直進車側)が優先道路であるT字路で直進車と右左折車が衝突した場合、「直進車A:右左折車B」の基本過失割合は「10:90」です。
優先道路とは、「優先道路」の標識がある道路や、センターラインが交差点内まで続いている道路のことをいいます。
優先道路を走る車には原則として交差点での徐行義務がないため、劣後道路を走る車の過失が大きくなります。
この場合に考慮される修正要素と修正割合は、以下のとおりです
| 修正要素 | 直進車A | 右左折車B |
|---|---|---|
| 右左折車Bの明らかな先入 | +10 | -10 |
| 直進車Aの著しい過失 | +10 | -10 |
| 直進車Aの重過失 | +20 | -20 |
| 右左折車Bの著しい過失 | -10 | +10 |
| 右左折車Bの重過失 | -20 | +20 |
【右折車同士】 T字路での交通事故の過失割合
以下では、T字路で「直線路からの右折車」と「突き当たり路からの右折車」が衝突した場合の基本過失割合と修正要素をパターン別に解説します。
道幅が同程度の場合

道幅が同程度のT字路で右折車同士が衝突した場合、「直線路からの右折車A:突き当たり路からの右折車B」の基本過失割合は「40:60」です。
このケースにおいては、左側から進入してくる車が優先される「左方優先」という考え方に基づき、突き当たり路からの右折車の過失割合が大きくなります。
この場合に考慮される修正要素と修正割合は、以下のとおりです
| 修正要素 | 直線路からの右折車A | 突き当たり路からの右折車B |
|---|---|---|
| 突き当たり路からの右折車Bの明らかな先入 | +10 | -10 |
| 直線路からの右折車Aの著しい過失 | +10 | -10 |
| 直線路からの右折車Aの重過失 | +20 | -20 |
| 突き当たり路からの右折車Bの著しい過失 | -10 | +10 |
| 突き当たり路からの右折車Bの重過失 | -20 | +20 |
一方の道幅が明らかに広い場合

一方の道幅が明らかに広いT字路で右折車同士が衝突した場合、「広路からの右折車A:狭路からの右折車B」の基本過失割合は「30:70」です。
「道幅が明らかに広い」といえるためには、客観的に見てかなり広い道幅でなければなりません。
この場合に考慮される修正要素と修正割合は、以下のとおりです
| 修正要素 | 広路からの右折車A | 狭路からの右折車B |
|---|---|---|
| 狭路からの右折車Bの明らかな先入 | +10 | -10 |
| 広路からの右折車Aの著しい過失 | +10 | -10 |
| 広路からの右折車Aの重過失 | +20 | -20 |
| 狭路からの右折車Bの著しい過失 | -10 | +10 |
| 狭路からの右折車Bの重過失 | -20 | +20 |
一方の道路に一時停止規制がある場合

一方の道路に一時停止規制があるT字路で右折車同士が衝突した場合、「規制のない右折車A:規制のある右折車B」の基本過失割合は「25:75」です。
一時停止規制とは、標識・停止線等で一時停止の表示がある状態のことをいい、道幅などにかかわらず一時停止規制がある側の過失が大きくなります。
この場合に考慮される修正要素と修正割合は、以下のとおりです
| 修正要素 | 規制のない右折車A | 規制のある右折車B |
|---|---|---|
| 規制のある右折車Bの明らかな先入 | +15 | -15 |
| 規制のない右折車Aの著しい過失 | +10 | -10 |
| 規制のない右折車Aの重過失 | +20 | -20 |
| 規制のある右折車Bの著しい過失 | -10 | +10 |
| 規制のある右折車Bの重過失 | -20 | +20 |
一方が優先道路の場合

一方が優先道路であるT字路で右折車同士が衝突した場合、「優先道路からの右折車A:劣後道路からの右折車B」の基本過失割合は「20:80」です。
優先道路とは、「優先道路」の標識がある道路や、センターラインが交差点内まで続いている道路のことをいいます。
優先道路を走る車には原則として交差点での徐行義務がないため、劣後道路を走る車の過失が大きくなります。
この場合に考慮される修正要素と修正割合は、以下のとおりです
| 修正要素 | 優先道路からの右折車A | 劣後道路からの右折車B |
|---|---|---|
| 劣後道路からの右折車Bの明らかな先入 | +10 | -10 |
| 優先道路からの右折車Aの著しい過失 | +10 | -10 |
| 優先道路からの右折車Aの重過失 | +20 | -20 |
| 劣後道路からの右折車Bの著しい過失 | -10 | +10 |
| 劣後道路からの右折車Bの重過失 | -20 | +20 |
T字路の交通事故に関するよくある質問
T字路の交通事故で過失割合10対0になることはある?
動いている車同士の交通事故の場合、原則として過失割合が10対0になるのは難しいといえます。
ただし、一方に「著しい過失」や「重過失」があった場合、10対0になるケースもあり得るでしょう。
たとえば、優先道路を走る直進車と突き当たり路からの右折車が衝突したケースで、右折車に酒気帯び運転などの「著しい過失」があった場合です。
この場合、計算上は直進車の過失が0となり、直進車と右折車の過失割合は10対0となる可能性があります。
ただし実際には、ほかにもさまざまな修正要素を考慮して過失割合が決まるため、必ずしも10対0になるとは限りません。
自動車とバイク・自転車の事故で過失割合はどうなる?
T字路での交通事故の基本過失割合が決まっているのは、自動車同士のみです。
そのため、バイク・自転車との交通事故の過失割合は、十字路交差点における交通事故の過失割合を参考に判断されます。
なお基本的には、自動車同士の事故に比べて自動車側が若干不利になることが多いです。
T字路で交通事故の被害にあったときは弁護士に相談を
このようにT字路における交通事故では、さまざまな要素や具体的な状況を考慮して過失割合を判断する必要があります。
しかし、ご自身で適切な判断をするのは簡単なことではありません。
そのため、T字路で交通事故の被害にあったときは、交通事故に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。
- 適切な過失割合を主張できる
- 慰謝料が増額できる可能性がある
- 保険会社との交渉をすべて任せられる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
適切な過失割合を主張できる
交通事故の示談交渉の際は、相手方の保険会社が過失割合を提示してくることがあります。
しかし、必ずしも適切な過失割合を提示してもらえるとは限りません。
提示された過失割合に納得できなければ、安易に合意せず反論する必要がありますが、過失割合の妥当性について適切に判断し交渉するのは難しいでしょう。
弁護士に依頼すれば、証拠や過去の裁判例、追加すべき修正要素などの根拠を示しながら、相手方の保険会社に対して適切な過失割合を主張できます。
慰謝料を増額できる可能性がある
交通事故の被害に対する慰謝料の算定基準には、以下の3つがあります。
| 基準 | 金額 |
|---|---|
| 自賠責保険基準 | 国が定める自賠責保険の基準で、通常はもっとも低額 |
| 任意保険基準 | 各保険会社が独自に定める基準で、通常は自賠責基準より高く弁護士基準より低い金額 |
| 弁護士基準(裁判所基準) | 過去の裁判例に基づいた基準で、通常はもっとも高額 |
交通事故の示談交渉において、相手の保険会社が提示してくる慰謝料は、「自賠責保険基準」または「任意保険基準」をもとに算定したものです。
一方で、弁護士が介入すれば、一般にもっとも高額になる「弁護士基準」の金額をもとに交渉を進めることができます。
そのため、慰謝料の増額はもちろん、最終的な賠償金の増額も期待できるでしょう。

保険会社との交渉をすべて任せられる
交通事故の被害にあうと、ケガの治療をしながら、警察への対応や勤務先への連絡など、さまざまな手続をしなければなりません。
ケガの痛みによる精神的苦痛や、仕事への影響、今後の不安などもあるはずです。
心身ともに負担がかかるなかで、さらに保険会社との交渉までご自身で行うのは、大きなストレスとなります。
弁護士に依頼すれば、保険会社との交渉をすべて任せることが可能です。
弁護士に対応を任せることで、時間的・精神的な負担が大きく軽減でき、日常生活を取り戻すことに専念できるようになるでしょう。
まとめ
T字路では「直線路」を走る車が優先となることが多いです。
ただし、T字路で交通事故が起きたとき、その過失割合は実際の状況によって大きく変わります。
過失割合は、10%変わるだけで賠償金額に大きく影響することもあるため、慎重な判断が必要です。
示談交渉の際、相手方の保険会社から提示された過失割合に少しでも疑問を感じたら、安易に合意せず弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、適切な過失割合を判断したうえで、賠償金の計算や示談交渉を行い、解決までトータルサポートすることが可能です。
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