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治療に関する損害

目次

1.治療関係費

治療費

治療費として認められる損害は、病院や治療院(整骨院・接骨院・鍼灸院)などに支払った必要かつ相当な実費全額です。

治療に関する損害

したがって、受けた診療が過剰診療、高額診療または濃厚診療であるとして、必要性・相当性が否定された場合には、その部分の治療費は損害として認められません。

ちなみに、過剰診療とは「疾患の程度に比して、医学的必要性ないし合理性が認められない治療行為」を、高額診療とは「特段の事由がないにもかかわらず、診療費が社会一般の診療費水準に比して著しく高額な治療行為」を、濃厚診療とは「疾患の程度に比して必要以上に丁寧な治療行為」をいいます。

温泉治療・鍼灸・柔道整復・マッサージ費用、治療器具・薬品代金

これらの費用は、医師の指示に従って行った(購入した)ものであれば、損害として認められることが多いです。医師の指示や同意がない状況で行った(購入した)場合でも、治療効果が認められるなどの事情があれば、損害として認められる可能性があります。

また治療効果が認められた場合でも、費用の全部が損害として認められない場合もあります。

たとえば、東京地裁平成7年9月19日判決では、被害者の方が頚椎捻挫に引き続くバレ・リュー症候群※と診断されたケースですが、治療の必要性について、証人尋問の結果から、医学的にはカイロプラックティックはバレ・リュー症候群の患者には有効ではなく、むしろ悪影響があると考えられていることと、被害者の方本人に対する尋問の結果から、施術を受けるようになったのは医師の指示ではなかったこと、施術を受けた後は症状がよくなることを認め、少なからず被害者の方の症状を軽快させるのに効果があったことを否定できないとして、48回の通院のうち比較的頻繁に通院していた19回については治療の必要性を認めるのが相当との判断をしました。

※バレ・リュー症候群── フランスの神経内科医バレー博士とその弟子のリュー博士によって報告されたのでこの名があります。むちうち症が原因で自律神経が直接的、もしくは間接的に刺激を受けていることで発症していると考えられます。
以下のような症状があります。
頭痛、めまい、耳鳴り、難聴と内耳の状態が悪くなる他、目の疲れ、かすみ、視力の低下、心臓が痛む、息苦しい、のどの違和感や声のかすれ、嚥下困難など。

個室・特別室使用料

入院中に、個室や特別室を利用した場合、患者は原則として個室・特別室利用料を支払う必要がありますが、個室等使用料は、空きベッドがない場合や受傷状況から見て必要性が認められる等の事情がない限り、損害として認められません。

謝礼

医師・看護師や介護士らに対する謝礼は、入院期間や受傷状況等を踏まえ、社会的通念上相当と認められる範囲内のものであれば損害として認められることがあります。

2.付添看護費

入院付添費

入院付添費は、医師の指示がある場合または被害者の受傷の程度・被害者の年齢等により入院付添の必要がある場合であれば、病院で完全看護に付されていたとしても、職業付添人を雇った場合にはその実費全額、近親者が付き添った場合には日額5500~7000円程度が、被害者本人の損害として認められます。自賠責保険では日額4200円(※1)とされています。

たとえば、東京地裁平成11年6月1日判決では、被害者の方が追突事故のために妊娠36週で胎児が死亡してしまったという事案ですが、入院中8日間夫が付き添っていた点につき、被害者の方の精神状態が不安定であったことを理由に日額6000円を認めました。

近親者が勤務先を欠勤して付添った場合などでは、付添人の休業損害相当額を参考に、日額1万円以上を損害として認めた例もあります。

たとえば、大阪地裁平成14年5月31日判決では、被害者(7歳の小学生)の入通院期間中、母親が付添にあたりました。母親は本件事故当時ホステスとして稼働しており、本件事故前3ヶ月間(91日間)に合計149万3400円(日額換算1万6410円)の給与収入があったことが認められるところ、被害者の方の年齢等からすれば、少なくとも入院期間中の被害者の方の付添看護については、母親が仕事を休んで付き添うことがやむを得ないものと認め、入院付添費に関しては母親の上記収入日額をもって算出するのが相当としました。その一方で、通院付添費に関しては、母親の勤務時間帯が夜間であると考えられることから、休業の必要性が存したとは認めがたいので、日額3000円とすべきであるとしました。

※1 自賠責保険の支払基準改正により、令和2年4月1日以降に発生した事故については、入院付添費は日額4200円に変更となりました。なお、令和2年3月31日以前に発生した事故については、従前のとおり、入院付添費は日額4100円のままとなります。

通院付添費

通院付添費は、医師の指示がある場合の他、被害者の受傷の程度や年齢等により、被害者の通院に付添が必要である場合であれば、日額3000~4000円程度が、被害者本人の損害として認められます。自賠責保険では日額2100円(※2)とされています。

通院付添費についても、事情に応じ、日額が増額される場合があります。

※2 自賠責保険の支払基準改正により、令和2年4月1日以降に発生した事故については、通院付添費は日額2100円に変更となりました。なお、令和2年3月31日以前に発生した事故については、従前のとおり、通院付添費は日額2050円のままとなります。

自宅付添費

退院後、自宅で付添介護を行った場合、被害者に介護の必要がある場合であれば、自宅付添費が損害として認められます。

3.入院雑費

医療機関に入院すると、治療費以外にも、日用品や食品の購入費や、テレビの視聴代金等、雑多な支出が必要とされます。これらの雑費については、診断書等に入院の事実が記載されていれば、具体的な支出を立証することなく、入院1日につき1400~1600円程度(自賠責保険では1100円)が損害として認められます。

4.入通院交通費等

被害者本人の交通費

医療施設への入退院や通院などのために支出した交通費は、バスや電車等の公共交通機関を使用することを原則として、その実費全額が損害と認められますが、タクシー代については、タクシー利用がやむを得ないと認められる事情がある場合に限り、損害として認められます。

やむを得ないと認められる事情としては、歩行が困難である場合や公共交通機関を利用するために長時間の徒歩移動を強いられる場合等があります。

自家用車で入退院や通院を行わざるを得なかった場合には、ガソリン代、駐車場代、高速道路料金が損害として認められます。

付添人の交通費等

近親者が付添看護のために医療機関を訪れた際の交通費については、被害者の症状や年齢等から付添看護が必要であると認められれば、これも被害者本人の損害として認められますが、医療機関が近隣である場合などでは、近親者の付添費用または入院雑費に含まれるとして、損害性が否定される場合もあります。

見舞人の交通費等

見舞のための交通費は、原則として損害と認められませんが、被害者の受傷状況等から、見舞に訪れるのもやむなしという場合には、損害として認めた例もあります。