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外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)とは

目次

1.そもそも外貌醜状とは何か

外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)とは、読んでの字の如く、外貌の醜状をいいます。外貌とは、頭部、顔面部、頸部など、日常露出する部分のうち、上肢及び下肢以外の部分を指します。つまり、手足以外の人目に触れる部位のことですね。そして、醜状とは、人目につく程度以上の瘢痕、線状痕などの傷痕のことをいいます。

つまり、外貌醜状とは、交通事故などで、手足以外の通常人目に触れる部位に、人目につく程度以上の傷痕が残ってしまった状態をいうのです。

このような状態が残ってしまった場合、精神的なショックも大きく、また、普段の職業等にも影響が出る場合もあります。そこで、人目に触れる部位に人目につく以上の傷痕が残ってしまった精神的なショック(後遺症慰謝料)や、将来の職業に対する影響(逸失利益)を、損害賠償請求していく権利が被害者に発生します。

2.請求できるのは後遺症慰謝料だけではありません!

外貌醜状が残ってしまった場合、保険会社の担当者から「外貌醜状については慰謝料部分しか認めてもらえないものです」、「外貌醜状について逸失利益は認められないんです」などと言われても、そのまま鵜呑みにしないように気をつけてください。

確かに、判例において逸失利益が否定された事例もあります。しかし、外貌醜状においても、逸失利益が認められた判例、慰謝料に組み入れて斟酌するとされた判例が多数存在します。外貌醜状だからといって、まったく逸失利益が認められないものではなく、醜状の部位・程度、被害者の年齢・性別・職業その他のさまざまな要素を組み入れて、逸失利益が認められるか認められないか、認められるとしてその金額はいくらになるかが決定されることになります。

保険会社からの話をそのまま信じて、損害項目に逸失利益が含まれていない免責証書にサインしてしまうと、本来もらえたはずの逸失利益が永久にもらえなくなってしまいます。「後遺症慰謝料はいくらもらえるのか?」、「逸失利益はどんなときにもらえるのか?」そうした疑問の答えをこれから解説していきます。

3.外貌醜状が残った場合の損害額の目安

後遺症が残ってしまった場合に支払われる、慰謝料と逸失利益は、認定された後遺障害等級によって変わってきます。後遺障害等級別に、裁判をしたならば認められる弁護士基準(裁判所基準)と逸失利益算定の基礎となる労働能力喪失率を表にまとめました。

外貌醜状の後遺障害等級と後遺症慰謝料、労働能力喪失率の目安
後遺障害等級 後遺症慰謝料 労働能力喪失率
7級12号 1,000万円 56%
9級16号 690万円 35%
12級14号 290万円 14%

外貌醜状による損害賠償請求のスタートは、まず、自分の醜状がどの等級に認定されるのか、から始まります。等級が認定されることでおおよその損害額を知ることができるからです。「どのような醜状が、どの等級に該当するのか」については、「外貌醜状と後遺障害等級」にて解説しております。

4.外貌醜状の場合は等級認定表どおりの労働能力喪失率にならない?

後遺症が残ってしまった場合、裁判所は原則的に自賠責保険における等級認定表に応じて労働能力喪失率を算定しています。しかし、外貌醜状の場合、等級認定表に定められた労働能力喪失率どおりには逸失利益を算定しないことがあります。それも、自賠責保険で定められた労働能力喪失率を大幅に割り込む場合や、外貌醜状が仕事に与える影響はまったくないとして逸失利益を算定しないことさえもあり得るのです。

そこで、自賠責保険が定めた労働能力喪失率をもとに、実際の裁判例で逸失利益がどの程度認められているか、見ていきましょう。

5.逸失利益に関する裁判例

男性等級なし

東京地方裁判所判決平成21年1月14日

結論 ×

外貌醜状による労働能力の喪失 → 認められない。慰謝料として斟酌する。

判断のポイント

  • 醜状の部位・形状・程度
    線状痕の大きさ、色彩、形状等に照らすと、第三者が反訴原告X1にある程度の距離まで近づいたうえ、凝視しなければ、同線状痕の存在に気づかない程度のもの。
  • 被害者の職業
    反訴原告X1が就く見込みの職業等に照らせば、反訴原告X1の後遺障害が労働能力に直接的に影響をおよぼす蓋然性は認めがたい。
  • 被害者の年齢
    若年であり、後遺障害の存在により、対人関係で消極的になるなど間接的に労働能力に影響をおよぼす可能性がないわけではない。

男性12級

東京地方裁判所判決平成18年12月25日

結論 ×
外貌醜状による労働能力の喪失 → 認められない。

判断のポイント

  • 主張立証の有無・程度
    外貌醜状が原告の労働能力に影響をおよぼすことを認めるに足りる証拠はない。

女性7級

(1)東京地方裁判所判決平成23年3月29日

結論 ○
外貌醜状による労働能力の喪失 → 認められる。

判断のポイント

  • 被害者の職業
    職業生活において不可欠なコミニュケーションのうえで外貌が果たす役割も無視できないことを考えると、外貌醜状が労働能力に影響を与えることは否定できず。
  • 被害者の転職
    営業担当社員として稼働していた原告X1が、現在、不動産管理会社(原告X1、同人の夫および夫の母の不動産を管理する会社)の代表取締役へと転職を余儀なくされていること。

(2)東京地方裁判所判決平成22年8月31日

結論 ○
外貌醜状による労働能力の喪失 → 認められる。

判断のポイント

  • 被害者の職業
    原告が主婦であるからこれが大きく労働能力に影響するとは考えられないが、主婦であっても人と接する仕事は少なくないし、労働能力に影響がまったくないとはいえない。
  • 醜状の形状・程度・部位
    ひきつれによる違和感が認められる。

(3)大阪地方裁判所判決平成22年3月15日

結論 ○
外貌醜状による労働能力の喪失 → 認められる。

判断のポイント

  • 醜状の形状・程度・部位
    本件事故による原告の外貌醜状の程度は著しい。
  • 被害者の職業
    飲食店を経営する接客業であり、業務の遂行に与える影響も大きい。

(4)大阪地方裁判所判決平成20年10月28日

結論 ○
外貌醜状による労働能力の喪失 → 認められる。

判断のポイント

  • 被害者の年齢・性別
    現在26才(症状固定時25才)の女性であり、原告の外貌および下肢に残る瘢痕等に鑑みれば、その大きさや他人に見られたくないという思いから生じる精神的負担および仕事に対する萎縮的効果についてはこれを過小に評価することはできない。
  • 被害者の職業
    原告が未婚女性であることも考慮すると、原告に残る醜状は、労働能力に影響しているというべき。

女性12級

(1)東京地方裁判所判決平成20年9月25日

結論 △
外貌醜状による労働能力の喪失 → 認められない。慰謝料として斟酌する。

判断のポイント

  • 醜状の形状・程度・部位
    陥凹変形については、10円銅貨程度の瘢痕と認められ(なお、甲A14・2頁)、ある程度は人目につくものと評価できる。これに対し、左下顎部の瘢痕のうち陥凹変形的要素を除外した部分(手術痕、感染症の治療痕等)については、被告クリニックおよびB病院で行われた瘢痕修正の治療(前記1(1)、(3)参照)を通じて相当程度改善。
    これらを前提としつつ、症状固定時に至る治療経過や各障害の程度等も考慮して検討すると、後遺症慰謝料としては200万円を認めるのが相当である。原告に認める後遺障害は、労働能力喪失をもたらす内容程度の後遺障害とは認められない。そうであれば、後遺症逸失利益は認められない。

(2)東京地方裁判所判決平成19年11月26日

結論 ○
外貌醜状による労働能力の喪失 → 認められる。

判断のポイント

  • 被害者の年齢
    症状固定時、23歳であったことからすると、これらの後遺障害が原告X1の労働能力に影響を与えることは否定できない。
  • 被害者の職業
    原告X1はファッションデザイナーを志望していたとしても、本件事故時は就職してから5ヵ月余りの研修期間中の店員であって、将来デザイナーとして収入を得ることは未知数といわざるを得ず、また、原告X1の醜状痕がデザイナーとしての業務遂行に直接的に影響を与えるものとまでも認められない。
  • 労働能力喪失の蓋然性
    逸失利益は、将来にわたる損害であるから、その算定は蓋然性の有無によって判断されることになるが、蓋然性に疑いがもたれるときは控え目な算定方法をとるのが相当である。
  • 醜状の形状、程度、部位と被害者の年齢
    醜状痕の部位、年齢等を考慮しても、20年間にわたり、10%程度の労働能力に対する影響があるものと認めるのが相当である。

上下肢外貌醜状(14級)

秋田地方裁判所判決平成22年12月14日

結論 ×
外貌醜状による労働能力の喪失 → 認められない。

判断のポイント
労働能力の低下の程度に関して、後遺障害別等級表の等級毎の労働能力喪失率はあくまで参考にすぎず、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体的な事案に応じて評価される。
この点、証拠(甲18、原告A本人)および弁論の全趣旨によって認められる原告Aの職業・職種(銀行課長職、債権管理)、年齢(症状固定時52歳)、醜状の部位・形状・程度に照らし、原告Aの外貌醜状障害が労働能力に与える影響は差程とは思われない。また、後遺障害別等級表上の等級評価から演繹的に導き出されるものではない。

参考 歯牙欠損

東京地方裁判所判決平成21年9月28日

結論 ×
歯牙欠損による労働能力の喪失 → 認められない。

判断のポイント

  • 欠損の部位・形状・程度
    歯牙損傷の程度。
  • 主張立証の有無・程度
    本件事故後被告の収入がこの歯牙損傷により減じたと認めるに足りる証拠がない。被告の収入には年によってかなりの増減があることが認められるが、収入減が本件の歯牙損傷によることが主張も立証されていない。

6.逸失利益の判断は交通事故の経験豊富な弁護士へ

以上のとおり、外貌醜状に関する逸失利益については、裁判例においても傷痕の位置、程度、症状固定時の年齢・職業など、ほかに残存した後遺症の影響などを勘案して決めているため、明確な基準を見出せないのが現実であり、任意保険との示談交渉で外貌醜状の逸失利益を獲得するためには、案件に応じた弁護士の適切な判断が大切になってきます。

当事務所では、交通事故の被害の示談交渉で豊富な経験を持つ弁護士がご相談を無料でお伺いしております。ご自身の外貌醜状がどの後遺障害等級に該当するのか、その場合、どの程度の損害額を請求していくことができるのかなどのご相談にお答えいたします。

7.外貌醜状と当事務所の取り組み

また、外貌醜状に基づく慰謝料・逸失利益の算定には、専門的な知見を必要とします。したがって、保険会社との交渉をご自身で行うことは難しい分野かと思われます。裁判例などの知識・見方・ポイントを知らないと、不当な金額で示談することになりかねません。そうならないためにも、知識と豊富な交渉経験を持っている当事務所までご相談いただければと思います。

解決事例 男性の外貌醜状12級14号の場合

当初、加害者の保険会社から提示された金額では、逸失利益は0円でした。しかし、当事務所が介入し、ご依頼者の職業および具体的な症状に着目し、外貌醜状が具体的にどのような点で仕事に影響を与えているか、論理的な主張を行いました。

その結果、保険会社からは、労働能力喪失率5%、かつ、労働能力喪失年数10年の提示をしてきました。このように、具体的に男性の外貌醜状のケースにつき、逸失利益を含んだ提示を引き出すことに成功しています。

ほかにも当事務所には、外貌醜状の事案が複数存在しており、交通事故前の顔の写真と事故後の顔の写真を対比させながら個別具体的に主張するなど、さまざまな手法で外貌醜状に関する交渉経験を蓄積しています。

このような専門的な知見・交渉経験の蓄積が、ご相談者様の外貌醜状に関する逸失利益の獲得につながるものと考えております。「外貌醜状だから…」ということだけで逸失利益の獲得をあきらめず、弁護士にご相談することをおすすめします。逸失利益についてあきらめてしまうのは、弁護士の見解を聞いてからでも遅くはありません。