[ 公開日:2021/07/19 ] [ 更新日:2023/09/12 ]
後遺障害4級の認定基準
後遺障害4級の各号別認定要件とは?
1号 両眼の視力が0.06以下になったもの
眼鏡やコンタクトレンズを着用した状態で、両目の視力がともに0.06以下になることをいいます。
ここでいう「視力」とは、裸眼ではなく矯正視力のことです。そのため、裸眼で視力が0.06以下となっても、後遺障害4級の認定要件には当てはまらないため、注意が必要です。
2号 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
「咀嚼機能に著しい障害を残す」とは、お粥かそれと同じくらいのやわらかい食べ物しか食べられなくなることです。
また、「言語機能に著しい障害を残す」とは、4種類の子音のうち2種類の発音ができなくなる、または綴音(ていおん)機能に障害が残ることで、言語のみでは意思疎通することができない状態のことです。
一般的に言語は、母音と子音に区別されますが、先述した「4種類の子音」とは、口唇音(ま行など)、歯舌音(た行など)、口蓋音(か行など)、喉頭音(は行)の4つを指します。
3号 両耳の聴力を全く失ったもの
「聴力を全く失った」とは、平均純音聴力レベルが90㏈以上であることです。4級3号の聴覚障害は、片耳ではなく「両耳」である点に注意が必要です。
4号 1上肢をひじ関節以上で失ったもの
「上肢をひじ関節以上で失った」とは、次の3つの状態をいいます。両腕ではなく、片腕であっても認定要件になります。
- 肩関節において、肩甲骨と上腕部を離断したもの
具体的には、腕の付け根から上肢をすべて失った状態です。
- 肩関節とひじ関節との間において上肢を切断したもの
具体的には、付け根からひじまでの間で、上肢を切断した状態です。
- ひじ関節において、上腕骨と橈骨および尺骨とを離断したもの
具体的には、ひじから先を失った状態です。
5号 1下肢をひざ関節以上で失ったもの
「下肢をひざ関節以上で失った」とは、次の3つの状態をいいます。両腕ではなく、片腕であっても認定要件になります。
- 股関節において、寛骨と大腿骨を離断したもの
具体的には、足の付け根から下肢をすべて失った状態です。
- 股関節とひざ関節との間において切断したもの
具体的には、足の付け根からひざまでの間で、下肢を切断した状態です。
- ひざ関節において、大腿骨と脛骨と腓骨とを離断したもの
具体的には、ひざから先を失った状態です。
6号 両手の手指の全部の用を廃したもの
「全部の用を廃した」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、または中手指節関節もしくは近位指節間関節に著しい運動障害を残すことです。
- 手指の末節骨の半分以上を失う
末節骨とは指の先の爪のついた部分の骨のことです。
- 中手指節関節もしくは近位指節間関節に著しい運動障害を残す
「著しい運動障害」とは、可動域制限が2分の1以下であることをいいます。
なお、親指の指節間関節は1つしかないため、遠位(心臓から遠い)や近位(心臓から近い)という概念がありません。そのため親指については、「指節間関節に著しい障害を残すもの」となります。
また、親指の機能を重く評価して、橈側外転または掌側外転のいずれかが健側の2分の1以下に制限されている場合にも、「著しい運動障害」に該当します。
7号 両足をリスフラン関節以上で失ったもの
「両足をリスフラン関節以上で失った」とは、次の2つの状態をいいます。ここでは、片足では認定要件を満たさず、両足であることが必要です。なお、片足の場合は、7級8号が認定される可能性があります。
- 足根骨において切断したもの
- リスフラン関節において中足骨と足根骨とを離断したもの
足根骨とは、足首やかかとにある短骨の総称です。足の甲またはかかとから切断した場合には、4級7号が認定される可能性があります。
後遺障害4級認定の流れ
後遺障害等級の認定手続には、被害者自身で後遺障害を申請する「被害者請求」と、加害者の保険会社に手続を任せる「事前認定」という2つの方法があります。
まずは被害者請求の流れから見てみましょう。
被害者ご自身で申請する方法 <被害者請求>
ステップ1 治療を受け、主治医に自賠責書式の診断書・診療報酬明細書を作成してもらう
毎月の入通院日や、症状、治療状況が記載されます。一般的に治療費は、保険会社が直接病院へ支払い、自賠責保険会社への請求も行うため、被害者が収集する書類は少ないです。
追加や補足の資料が必要になった際は、保険会社から取り寄せるようにしましょう。
もし、保険会社が治療費の対応を行っていない場合は、被害者の方が診断書や明細書を収集する必要があります。治療終了の際や、被害者から自賠責保険会社に対して賠償金の請求を行う(被害者請求)際に、主治医に作成いただくのがよいでしょう。
ステップ2 主治医に症状固定判断をもらう
「症状固定」とは、被害者が十分な治療を受けたうえで、主治医からこれ以上は治療効果がなく、症状が良くも悪くもならないと診断された状態にあることをいいます。
一般的に、「治療を終了する日=症状固定日」となるケースが多いです。
なお、幸いにも症状が改善している、完治したといった場合は、後遺障害にはあたりませんので、症状固定日は存在しないことになります。
ステップ3 主治医に後遺障害診断書を作成してもらう
症状固定日が決まったら、後遺障害が残っていることを後遺障害診断書に記載してもらいます。特に「むちうち症」の自覚症状には首すじの痛み、頭痛、吐き気、腕のしびれなど、さまざまな症状があります。
まずは、病院で診断を受ける前に、あらかじめ自覚症状をご自身で整理したうえで、医師に診断してもらう際には、痛み、しびれに関する自覚症状を正しく、漏れなく、遠慮なく伝えることを心がけてください。
主治医に症状をしっかりと伝えないことで、ご自身が思っていたよりもずっと軽い症状を後遺障害の診断書に記載されることがありますので注意しましょう。
ステップ4 主治医に必要に応じて検査や、画像を撮影してもらう
正しく症状を把握し、適切な認定を受けるためには、MRIによる画像検査や、神経症状テストも有効です。
神経症状テストとは、たとえば、頭を傾けて下方に押し付けることで神経根障害を調べるスパーリングテストや、筋力の低下から神経の障害を調べる徒手筋力検査などです。
むちうち症は「神経症状」となりますので、神経学的な所見から診断結果を記載してもらいましょう。
ステップ5 申請するための書類を用意する
必要書類は下記のとおりです。
ケガに対する慰謝料や、交通費、休業損害等を後遺障害と一緒に請求したい場合は、下記書類も併せて用意します。
ステップ6 ステップ1~ステップ5までの書類を自賠責保険会社に送付する
資料が一通りそろったら、次はいよいよ後遺障害の申請です。
必要な情報を記載した請求書と資料一式を加害者側の自賠責保険会社に郵送します。請求先である自賠責保険会社は、「交通事故証明書」から確認することができます。
ステップ7 認定結果が判明
請求内容や請求者にもよりますが、結果がわかるまでに、おおむね1~3ヵ月程度の期間がかかります。
その後の流れとして、郵送した書類は自賠責保険会社を経由して、損害保険料率算出機構という調査機関で損害の調査が行われます。損害が認定されたのち、結果は自賠責保険会社を経由して、被害者に通知されます。その後、支払指図書に従い、保険金の支払いが行われます。
個人で行う被害者請求では、注意点や用意する資料がたくさんあり、対応が難しいことが多いでしょう。そこで、難しい手続を簡単にするための請求方法をお伝えします。
弁護士に依頼し、代理で被害者請求してもらう方法
弁護士は、被害者に代わって被害者請求を行うことができます。
ほとんどの手続を任せられるという点では、後述する「事前認定」と似ていますが、弁護士に依頼した場合、被害者の方が資料を持ち合わせていないことがままあります。「事前認定」と手続を比較すると、弁護士が保険会社や病院から書類を集めるための時間がかかる点が異なります。
ステップ1
ステップ2
弁護士が保険会社から資料を収集し、被害者の方からヒアリングする。
ステップ3
資料の追加、修正が必要な場合は、弁護士もしくは被害者自身で対応する。
ステップ4
ステップ4以降は、弁護士が手続を行います。
弁護士は「被害者の代理人」という立場で手続を行いますので、当然いい結果となるよう、全力でサポートします。特に、日頃から交通事故の案件を扱う弁護士は後遺障害等級認定のプロなので、同じ症状であっても認定されやすい表現や、症状の立証のために必要な検査についてのアドバイスが可能なため、適正な後遺障害の等級認定を受けられる可能性がグンとあがるのです。
また、異議の申立や、紛争処理機構への申立手続などにも精通しているので、さまざまなアプローチから認定の可能性を検討することができます。
加害者側の保険会社にお任せする方法 <事前認定>
被害者に代わって、加害者側の保険会社が後遺障害申請手続を代行して行うことを「事前認定」と言います。多くの場合、保険会社のサービスで治療費は保険会社が直接病院へ支払い、自賠責保険会社に対する請求もまとめて対応する「一括対応」の流れが一般的で、被害者が用意する書類も少ないことから、手続が最も簡単な方法だといえます。
ステップ1 症状固定日が決定したあと、保険会社に後遺障害申請希望の旨を伝える
ステップ2 手続に必要な資料を保険会社に郵送する
郵送後は、保険会社が手続対応してくれます。
自賠責保険会社への請求で必要な資料は、申請者が被害者であっても保険会社であっても変わりません。そのため、手続に必要な資料を保険会社が収集し、手続まで行ってくれるため、申請者にとって負担が少ない方法です。
しかし、保険会社は、手続の一環として対応するだけですので、自覚症状が漏れなく表現されているかなど、書類の精査まで行ってくれるわけではありません。また、診断書を作成する医師のほとんどは「医学のプロ」であり、「自賠責保険における後遺障害認定のプロ」ではありませんので、どうしても表現に不足がある、自覚症状を軽く書かれてしまうなどのケースがあります。
つまり、手続は早いし簡単だけど、正しく認定されるとは限らないということです。
後遺障害14級が認定!賠償金はどう変わる?
後遺障害14級が認められた、認められていないにかかわらず、「後遺障害の慰謝料」と「逸失利益」を賠償金に追加して請求することができます。
自賠責保険基準で支払われる保険金は?
自賠責保険基準における14級の保険金額は、以下のとおりに決められています。
後遺障害慰謝料:737万円
逸失利益(上限) :1,152万円
※令和2年4月1日以降に発生した事故の場合
認定を受けるとまず、後遺障害慰謝料と逸失利益の合計額である「1,889万円」を上限として、後遺障害の保険金が支払われます。
※条件によって減額されることがあります。
被害者は保険会社に対し、これを超える金額を請求することとなりますが、たとえば、根拠なく「慰謝料1,000万円だ!」と言っても、保険会社が応じることはありません。金額交渉をするのであれば、裁判上で考えられる金額を基礎として設定されている「裁判所基準」を用いることが最良です。
裁判所基準で請求できる慰謝料は?
自賠責保険基準では737万円と定められていますが、裁判所基準では「1,670万円」です。実に2倍以上もの開きがあることがわかります。この差は大きいですね。
認められる逸失利益は?
逸失利益(いっしつりえき)とは、交通事故により負傷し、治療を尽くしても一定の後遺障害が残ることで労働能力が低下してしまい、事故がなければ将来獲得できたであろう収入が減ってしまうことをいいます。
基本的な計算方法
事故前年の年収額 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、中間利息を控除したものです。
ワンポイント 中間利息控除計算の係数について
中間利息控除計算の係数には、単利計算のホフマン係数と、複利計算のライプニッツ係数が存在します。
逸失利益の計算では、利息を控除する必要があるため、単利計算であるホフマン係数のほうが被害者にとって有利ですが、現在はライプニッツ係数を採用することが原則となっています。
- 事故前年の年収額
最も現状の収入能力に近いと推測できる事故前年の収入から計算されることが一般的です。
- 労働能力喪失率
影響の度合いです。後遺障害4級における労働能力の喪失率は92%です。
事故にあう前は正常であった言語機能に著しい障害が残る、聴力を失うなど、日常生活や就労に大きな影響をおよぼしますので、ほとんどの労働能力を失うと想定されています。
- 喪失年数
労働力に影響がある期間です。理論上、症状固定を迎えてから67歳、または平均余命の2分の1のいずれか長いほうとされています。
交通事故処理の知識・経験がない方にとっては、逸失利益の算定について理解が難しいこともあるかと思いますので、まずは下の例をご覧ください。
<例>50歳で500万円の年収があったが、後遺障害4級が認定。仕事に甚大な影響が出た場合
まず、これまで得られていた500万円が、理論上92%減ることとなります。そして、67歳までの17年間にわたって影響がありそうだとなった場合、「500万円の92%が17年間喪失する」ということになります。実際には、「17年」ではなく、17年に対応するライプニッツ係数をかけることになることが一般的です。
単純計算すると、「500万円×92%×17年=7,820万円」となります。
これが、逸失利益の考え方です。
自賠責保険基準では、収入金額にかかわらず1,152万円を上限としていますので、適正な金額で請求しないまま示談してしまうと、大きく損をしてしまう可能性があります。
次は、ライプニッツ係数を使った計算についてご説明します。
ライプニッツ係数を使った計算方法
ライプニッツ係数表
上記の例を正しく計算すると、500万円×92%×ライプニッツ係数という計算になります。
事故にあった日によって、使用する係数が異なりますが、今回は2020年4月に施行された民法の改正により定められた年利3%を採用して計算してみましょう。
そうすると、17年のライプニッツ係数は「13.1661」となりますので、500万円×92%×13.1161=6,033万4,060円となります。
将来のお金を今、先取りで得ると、運用していくことで利息を増やすことができるなど、のちに受け取るよりも価値があると考えられているので、「先取りするなら利息分引いておくよ。」という考えから、ライプニッツ係数を採用しています。
ワンポイント 民法改正による中間利息の改正について
- 改正民法は、2020年4月に施行されました。民法改正後の2020年4月1日以降に交通事故にあわれた方は、ライプニッツ係数(3%)を、民法改正前の2020年3月31日までに交通事故にあわれた方は、ライプニッツ係数(5%)を採用することとなります。
- 中間利息の年利が5%から3%に引き下げられたことで、控除される利息は少なく、受け取れる金額は増えることとなり、結果として逸失利益は民法の改正前より改正後のほうが高くなります。
- 定期金賠償に関しては、中間利息を控除することはありません。
裁判所基準で請求するなら弁護士への相談がオススメ
ここまでで、自賠責保険基準と裁判所基準で受け取れる金額に大きな差があることは、おわかりいただけたと思います。
ご自身で対応していく場合、知識がある保険会社の担当者は、慰謝料や賠償金の手出しが少なくなるよう、自賠責保険基準に近い金額を提示することが多く、初めから裁判所基準で計算して支払いをしてくれることは極々稀と考えておいていいでしょう。
交通事故の被害にあったとき、プロのサポートを受けた後遺障害申請手続か、裁判所基準で計算された賠償金額かなど、専門家に依頼するか否かで、認定される後遺障害の等級や受け取れる賠償金額に大きな違いが生じる可能性があります。
後遺障害の申請を考えている場合や、後遺障害が認められた際の慰謝料や賠償金請求は、交渉の専門家である弁護士に依頼することで、大きなメリットがあるケースが多いため、まずは無料相談できる弁護士に相談されることをおすすめします。