手首骨折で認められる後遺障害等級と慰謝料について

[ 公開日:2021/07/27 ] [ 更新日:2023/05/31 ]
この記事でわかること
  • 手首骨折の種類
  • 手首骨折による後遺障害
  • 手首骨折で請求できる慰謝料の相場
「歩行中やバイク・自転車の運転中に交通事故に遭い、転倒して思わず手をついてしまった」。そういった状況で手首の骨折はよく発生します。手首を骨折してしまうと、治療中の日常生活での不便が大きいことはもちろん、もし後遺症が残ってしまった場合は、将来にわたって生活のあらゆる場面で影響を受けることになります。そのため、交通事故により手首を骨折してしまったときは、早期に適切な治療を受けることが重要であり、後遺症が残ってしまった場合に適切な補償を受けるためには、適切な後遺障害等級の認定を受ける必要があるのです。
本コラムでは、交通事故によって手首を骨折してしまった方向けに、具体的な治療や症状別に認定されうる後遺障害等級、獲得できる慰謝料などの相場について解説していきます。
目次

手首(手関節)とは

手首(手関節)は、前腕骨と手(しゅ)根(こん)骨(こつ)とで構成される関節のことを指します。

前腕骨

手首から肘まである骨で、橈(とう)骨(こつ)と尺(しゃっ)骨(こつ)の2本からなります。手のひらを見て、親指側につながるのが橈骨、小指側につながるのが尺骨です。

手根骨

舟状(しゅうじょう)骨(こつ)、月状(げつじょう)骨(こつ)、三角(さんかく)骨(こつ)、大菱形(だいりょうけい)骨(こつ)、小菱形(しょうりょうけい)骨(こつ)、有(ゆう)頭骨(とうこつ)、有(ゆう)鈎(こう)骨(こつ)、豆状(とうじょう)骨(こつ)の8つの小さな骨からなり、そのうち舟状骨+月状骨+三角骨が手首(手関節)を構成します。
手首の骨折とはすなわち、手関節を構成する骨の骨折を意味するのです。

主な手首骨折の種類

橈骨骨折

手首骨折の場合、「橈(とう)骨(こつ)遠(えん)位端(いたん)骨折(こっせつ)」などと診断されることが多いです。
遠位端とは、心臓を中心として距離的に遠い位置にあることを指し、この場合は、橈骨が手首側で折れている状態をいいます。
一方、橈骨近位端とは、逆に心臓に近い位置、すなわち肘側を意味します。受傷直後から強い痛みや患部の腫れを生じ、骨折部のズレ(転位)が大きいと、外見上も変形が見て取れることがあります。

尺骨骨折

橈骨と同様に「尺(しゃっ)骨(こつ)遠(えん)位端(いたん)骨折(こっせつ)」などと診断されることが多いです。
尺骨遠位端のうち、もっとも先端に位置する出っ張り部分を「尺(しゃっ)骨(こつ)茎状(けいじょう)突起(とっき)」と呼び、尺骨茎状突起に限定した骨折は「尺骨茎状突起骨折」と診断されます。橈骨と同様に患部の痛みや腫れ、手首の動きの制限が生じます。

舟状骨骨折

手根骨の骨折のなかでは、比較的よく見かけます。しかし、通常のレントゲン撮影では骨折が見えにくい場合が多く、当初は打撲・捻挫などと診断され、親指の付け根の痛みが引かないことから、後日CTやMRIを実施して骨折が判明するというケースがよくあります。
また、血流が悪く、骨癒合が得られにくい(=骨がくっつきにくい)ため、偽関節化(骨癒合が止まった状態)しやすい部位であるといえます。

月状骨骨折

交通事故による月状骨単独の骨折はそれほど多くありません。手首を強くついた場合などに、月状骨の脱臼、もしくは月状骨以外の手根骨の脱臼が生じる場合があります。

三角骨骨折

月状骨骨折と同様に、手首の骨折としてはそれほど多い骨折ではありません。手首に強い力が加わることで靱帯(じんたい)に骨が引っ張られ、剥離骨折を生じることがあります。

手首骨折における検査と治療

受傷直後は、主にレントゲン、CT、MRIを撮影し、骨折の有無やその程度が診断されます。そのうえで、保存的治療か外科的治療かが選択されます。

  • 保存的治療
    骨折部を元の位置に戻し(整復)、ギプスなどで患部を固定して骨癒合を図ります。
  • 外科的治療
    骨折の程度が大きい場合などに、金属プレートやスクリュー(ボルト)などで骨折部の整復・固定を図ります。

骨折の回復には患部の安静を保つのが第一ですが、安静にしすぎると、手首・手指の関節が拘(こう)縮(しゅく)(関節が固まって、動かしにくくなってしまうこと)を起こし可動域が低下するため、経過を見ながらリハビリテーションを開始していきます。

手首骨折による後遺障害

ある程度の治療を行ったものの何らかの症状が残り、これ以上の改善は見込みにくいと医師が診断した状態を、「症状固定」といいます。残ってしまった症状については、後遺症として後遺障害認定の申請を行うことになります。
手首骨折で生じうる代表的な後遺障害としては、骨折部に痛みやしびれが残る「神経症状」、手首の関節(手関節)の可動域に制限が生じる「機能障害」、骨折部の高度な変形や偽関節が残る「変形障害」などが挙げられます。ここからは、それぞれの後遺障害について、該当する等級と具体的な内容を見ていきましょう。

神経症状

一定の治療を行っても患部に痛みやしびれなどの「神経症状」が残ってしまった場合に、認定を受ける可能性があります。

後遺障害14級9号:局部に神経症状を残すもの
後遺障害12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

後遺障害等級は、骨折の状態や治療状況、骨癒合状態などから、総合的に評価されることになります。

機能障害

手首の骨折により、手首の運動に制限を残した場合に認定される可能性があります。

後遺障害12級6号:1上肢の3大関節の1関節の機能に障害を残すもの
後遺障害10級10号:1上肢の3大関節の1関節の機能に著しい障害を残すもの
後遺障害8級6号:1上肢の3大関節の1関節の用を廃したもの

手首の機能障害は原則として、「患側(骨折した側)」の手首の可動域角度と、「健側(骨折していない側)」の手首の可動域角度の比較で認定されます。手首においては、手首を屈曲(手のひら側に曲げる動き)、および伸展(手の甲側に曲げる動き)させる運動の合計可動域角度を対象として、健側と比較して患側の可動域が、3/4以下に制限されていれば「12級6号」、1/2以下に制限されていれば「10級10号」、強直状態(おおむね1/10以下の制限)であれば「8級6号」が認定されます。

単純に数値として認定要件に達していれば認定されるというわけではなく、骨折状況や治療経過、骨癒合状態(変形の有無や関節面の状態)などから、総合的に評価されます。

可動域制限のほかにも機能障害として評価される障害は多く、以下に簡単にまとめます。

<人工関節・人工骨頭>
後遺障害の認定において、関節自体を人工関節・人工骨頭に置き換えた場合には、「10級10号」で評価されます。さらに、可動域が1/2以下に制限されていれば、「8級6号」で評価されます。ただし、手首においては人工手関節がほとんど普及していないため、目にする機会はほぼないものといえるでしょう。

<回内・回外運動>
手首を内側・外側に回す運動ですが、これは手首ではなく、前腕の機能障害として評価されます。健側と比較して、1/2以下の制限で「12級」、1/4以下の制限で「10級に準じた等級」として評価されます。

<動揺関節>
可動域制限とは逆に、骨折などにより関節が異常な運動(ぐらつき・緩み)を示す場合、常に硬性補装具を必要とするものは「10級10号」、ときどき硬性補装具を必要とするものは「12級6号」で評価されます。

変形障害

後遺障害12級8号:長管骨に変形を残すもの

長管骨とは、上肢における上腕骨・前腕骨(橈骨・尺骨)、下肢における大腿骨(だいたいこつ)・下腿(かたい)骨(こつ)(脛(けい)骨(こつ)・腓(ひ)骨(こつ))を指します。すなわち、手根骨の骨折については、変形を生じていても認定対象とはならないのです。以上のことから、手首骨折で変形障害の対象となる変形とは、長管骨の骨端部に癒合不全(偽関節)を残したとき、もしくは、骨端部のほとんどを欠損したときが想定されます。

「主な手首骨折の種類」でご説明したように、特に「尺骨茎状突起骨折」は、骨癒合が得られないことが多く、変形障害を残しやすいといえます。そのほか、橈骨・尺骨の両方が15度以上屈曲して、変形癒合した場合も認定対象となりますが、現代の医療事情ではそのレベルの変形を残すことは少ないようです。

※手首に近い前腕の骨(橈骨・尺骨)が正常に癒合しなかった場合は「8級8号:1上肢に偽関節を残すもの」、常に硬性補装具の装着が必要となった場合は「7級9号:1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」に該当する場合があります。

欠損障害

骨折により、骨折した部位の周囲組織を激しく損傷すると、受傷部(事故に遭って、ケガをした部位)を修復しても血流が回復せず、患部が壊死してしまうことがあります。そうなると生命に危機がおよぶため、患部の切断が選択される可能性もあります。

後遺障害2級3号:両上肢を手関節以上で切断したもの
後遺障害5級4号:1上肢を手関節以上で切断したもの

手関節以上で切断したものとは、肘関節と手関節との間を切断したもの、手関節において橈骨・尺骨と手根骨とを切断(離断)したものを指します。

手首骨折により、請求できる慰謝料などの相場は?

手首骨折による後遺障害が認められた場合、治療期間に発生する損害(慰謝料含む)とは別に、後遺障害の損害を請求することができます。
後遺障害の損害とは、主に「後遺症慰謝料」と「逸失利益」の2つを指します。症状や後遺障害の等級によっては、将来発生することが見込まれる介護費用や手術費用などの請求も可能です。

後遺症慰謝料

後遺症慰謝料は、治療期間に発生する損害として請求できる慰謝料とは別に、請求することができます。後遺障害の各等級ごとに支払金額が基準化されているのです。
手首骨折によって見込める後遺症慰謝料は、以下の表のとおりです。

神経症状(手に痛みやしびれを残した状態)

等級自賠責保険基準裁判所基準
12級9号 (局部に神経症状を残したもの)32万円~110万円
12級13号 (局部に頑固な神経症状を残したもの)94万円~290万円

※令和2年4月1日以降の事故の場合

機能障害(運動機能に制限を残す、脱臼しやすくなった等)

等級自賠責保険基準裁判所基準
12級6号 (1上肢の3大関節の1関節の機能に障害を残すもの)94万円~290万円
10級10号 (1上肢の3大関節の1関節の機能に著しい障害を残すもの)187万円~550万円
10級10号 (1上肢の3大関節の1関節の機能に著しい障害を残すもの)324万円~830万円

※令和2年4月1日以降の事故の場合

変形障害(手首の骨が変形している)

等級自賠責保険基準裁判所基準
12級8号 (長官骨に変形を残すもの)94万円~290万円
8級8号 (1上肢に偽関節を残すもの)324万円 ~830万円
7級9号 (1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの)409万円~1,000万円

※令和2年4月1日以降の事故の場合

欠損障害(患部の切断が必要)

等級自賠責保険基準裁判所基準
5級4号 (1上肢を手関節以上で切断したもの)618万円~1,400万円
2級3号 (両上肢を手関節以上で切断したもの)998万円~2,370万円

※令和2年4月1日以降の事故の場合

いかがでしょうか。同じ後遺障害等級でも、採用する基準の違いによって、大きく慰謝料が変わることがわかると思います。自賠責保険基準に比べて、弁護士による裁判所基準(裁判所が慰謝料を算定する際に参考にする基準)で請求を行ったほうが、最終的に高額な賠償金を獲得できるケースが多いため、後遺障害等級の認定を受けたらそのまま示談せず、弁護士に一度相談することをおすすめします。
また、上記の表は、手首骨折によって後遺障害等級の認定を受けた場合を想定したものです。手首骨折以外の症状がある場合、その症状に対しての後遺障害が認められ、手首骨折と併合した後遺障害として認定を受けることで、結果的に等級が上がるケースもあります。賠償金の詳しい請求見込み金額を知りたいという方は、弁護士に相談するとよいでしょう。

逸失利益

後遺障害等級が認定された場合、その被害者は、今後改善が望めない後遺症を負ってしまい、治療が終わったあとも日常生活に影響が残ってしまっていることから、労働力にも影響をおよぼすと考えられています。
そこで、労働能力が制限される度合いと、制限されると見込まれる期間、収入能力から、得られなくなる(逸失してしまう)であろう収入(=利益)を計算したものを、「逸失利益」として請求します。

上記の表で紹介した「裁判所基準」と呼ばれる賠償金の計算方法等を記載している「損害賠償額算定基準」、通称“赤い本”と呼ばれる参考資料では、逸失利益の算定方法を以下のように記載しています。
「逸失利益の算定は労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して行う」

まず、逸失利益は、「基礎収入」を基に計算されます。基礎収入とは、直近の年収を用いることが一般的です。直近の年収を採用することは不適切とされる、家事従事者(主婦・主夫等)を始め、金銭を受け取っていない労働者など、具体的な年収を示すことが困難である場合は、賃金センサス(厚生労働省が発表している日本の賃金に関する統計)と呼ばれる「平均賃金」を用いて算定することがあります。

次に、労働能力が制限される度合いは、「労働能力喪失率」と表現されます。後遺障害の程度によって、5%~100%の制限を受けるとされています。

続いて、労働能力が制限されると見込まれる期間は、「労働能力喪失期間」といい、その期間の採用方法は、
1 症状の改善を見込めなくなった時期から67歳まで、
2 平均余命の1/2のいずれか長いほうから、その期間に応じた中間利息を控除したもの
が採用されます。
ただし、労働能力喪失期間は、症状によっては5年~10年程度とされるケースや、職業などから労働能力自体喪失しないとされるケースもありますので、注意が必要です。

中間利息とは?

被害者の方が将来取得予定だった利益を前倒しで受け取ることにより、現在と将来の間に発生する利息のこと。

適切な逸失利益の請求は、収入能力や後遺障害による影響の度合いについて、争いになることも多いため、専門家である弁護士に相談しておくことも大切でしょう。

まとめ

今回は、手首骨折について解説しましたが、骨折の状態によっては、ここまでに紹介した以外の後遺障害を残す場合もあります。適切な治療が行われない場合や障害の立証が不十分な場合は、実態よりも低い等級で評価されたり、後遺障害に該当しないと判断されたりする可能性もありえるのです。そのため、交通事故に遭われた際には、なるべく早い段階で交通事故被害に詳しい弁護士に相談したほうがよいでしょう。

アディーレ法律事務所では、交通事故被害を専門で取り扱っている「交通事故専門チーム」があり、被害に遭われた方々をサポートするため、そして、適切な後遺障害の認定を受けるために、必要なアドバイス等を気軽に受けられるよう、治療中の段階からのご相談やご依頼を受け付けております。ご相談は何度でも無料で承っており、オンライン面談またはお電話にてご自宅からご相談いただけるため、事務所へご来所いただく必要もありません。交通事故被害について、気になることやお悩みをお持ちの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事の監修者
村松 優子
弁護士 村松 優子(むらまつ ゆうこ)
資格:弁護士
所属:愛知県弁護士会
出身大学:愛知大学法学部

私は,司法試験を目指した当初から,親しみやすい法律家になりたいと考えていました。それは,私自身が弁護士に対して,なんとなく敷居が高そうというイメージを抱いていたからです。私は,司法試験に合格した後,学生時代の友人から,合格しても何にも変わらないね,安心したと言われました。弁護士になった後も,昔と変わらないねと言われ続けたいです。私は,ただすこし法律を勉強しただけで,そのほかは普通の人と何ら変わりはありません。なので,どんなことでも気軽に相談してください。

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